新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

復讐するは我にあり

アルジャーノン=ブラックウッドに"Vengeance Is Mine"という短編がある。1921年に発表され、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルクなどが無償公開している。まだ邦訳はない模様だ。The Wolves of God, and Other Fey Stories by Al…

ラヴクラフトとブラックウッド

ダーレスは1927年からアルジャーノン=ブラックウッドと文通していた。ダーレスにとってブラックウッドはラヴクラフトやC.A.スミスに次いで重要な作家だったようで、1963年5月16日付のラムジー=キャンベル宛書簡で「アーカムハウスを立ち上…

嵐に散る花

昨日の記事で紹介したケネス=スターリングの回想記は、1999年にアーカムハウスから刊行されたLovecraft Rememberedに収録されている。 hplovecraft.com ラヴクラフトの形をした雲を背景とし、彼にゆかりのある人々が一堂に会しているという幻想的な表紙…

人には測り知れざる洞窟

ラヴクラフトの友人だったケネス=スターリングの回想記は"Caverns Measureless to Man"という題名で、これはサミュエル=コールリッジの「クーブラ=カーン」の一節に因んだものだと一昨日の記事で申し上げた。スターリングはラヴクラフトと「エリックスの…

怖れを知らない女の子

昨日の記事で取り上げたゲイマンの掌編はすばらしい作品だと思うのだが、あまりに暗澹としていることは確かだ。そこで、同じFearie Talesの収録作から今度は明るめの話としてマルクス=ハイツの"Fräulein Fearnot"を紹介したい。なおドイツ語で書かれた小説…

流れ流れて無明の海へ

Fearie Tales: Stories of the Grimm and Gruesomeという恐怖小説のアンソロジーがある。世界幻想文学大賞を4回も受賞した大物編集者スティーヴン=ジョーンズが手がけた本で、グリム童話をモチーフとしている。収録された作品のひとつがブライアン=ラムレ…

プロヴィデンスに春が

ダーレスがラヴクラフトに捧げた挽歌がブラウン大学図書館の公式サイトで無償公開されている。初出はRiverという文芸誌で、その後1944年にアーカムハウスから刊行されたMarginaliaに収録された。Brown Digital Repository | Item | bdr:421445 ブラウン…

七風の都

『マレウス・モンストロルム』(以下マレモンと略す)に載っている「風の子ら」はハスターかイタカの眷属だろうと思いきや独立種族ということになっているのだが、この設定はおそらく来歴に理由があるのだろう。出典となったのはジョゼフ=ペイン=ブレナン…

柳の祭壇

元々はローマ神話の神であるスムマヌスが旧支配者として『マレウス・モンストロルム』(以下マレモンと略す)に載っているのは、出典となった"What Dark God?"の作者がブライアン=ラムレイであることだけが理由だろうという話を昨日した。クトゥルー神話と…

いかなる暗き神か?

ブライアン=ラムレイに"What Dark God?"というクトゥルー神話短編がある。1975年にアーカムハウスから刊行されたNameless Placesを初出とし、その後いくつかの作品集に再録された。いま読むのであればHaggopian and Other Storiesが入手しやすいだろう…

向こう側で会いましょう

3日ばかり吸血鬼の話が続いたが、The Children of Cthulhuに話題を戻す。同書に収録されている短編のひとつがイヴォンヌ=ナヴァロの"Meet Me on the Other Side"だ。 ポールとメイシーは冒険家の夫婦。世界を股にかけ、ビルマの奥地では怪物に追いかけなが…

いかなる限界をも超えて

Vampires: The Greatest Stories所収の未訳作品のうち、最重要といってよいのはカール=エドワード=ワグナーの"Beyond Any Measure"だろう。1983年度の世界幻想文学大賞であるにもかかわらず、未だに邦訳がない。題名は『ロッキーホラーショー』の歌詞…

いなくなったママ

マーティン=グリーンバーグの編集した吸血鬼アンソロジーといえばVampires: The Greatest Storiesがある。タニス=リーの「血のごとく赤く」やフィリップ=K=ディックの「クッキーおばさん」など、この本に収録されている作品は邦訳済のものが多いのだが…

ネリー=フォスター

Not Long for This Worldというダーレスの短編集は彼自身があまり高く評価していない*1が、捨てるには惜しい味わいのある話も多い。ウィアードテイルズの1933年6月号を初出とする"Nellie Foster"もそのひとつだ。 ネリー=フォスターという少女が死んで…

帰ってきたセーラ=パーセル

ダーレスに"The Return of Sarah Purcell"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1936年7月号で、その後Not Long for This Worldに収録された。 セーラとエマのパーセル姉妹はずっと二人きりで暮らしていたが、姉のセーラが先に亡くなった。残さ…

赤土

The Children of Cthulhuからもう一編、マイケル=リーヴスの"Red Clay"を紹介させていただく。 その墓は、町から遠く離れた山の中にあった。墓とはいうものの、墓石も十字架もない。長さ6フィート、幅2フィートの地面が剥き出しになっているばかりだ。悪…

森の小屋

The Children of Cthulhuというアンソロジーがある。2002年に刊行され、編者はベンジャミン=アダムズとジョン=ペラン。私の知る限り、この本に収録されている作品で邦訳があるのはチャイナ=ミエヴィルの「細部に宿るもの」だけだが、未訳作品の中から…

塗装された鏡

昨日に続いてドナルド=ワンドレイの短編である。"The Painted Mirror"という題名で、初出はエスクァイア誌の1937年5月号。現在はエスクァイアの公式サイトで無償公開されている。 classic.esquire.com 当時の誌面が再現されている。いきなり女性の脚が…

宇宙の掠奪者

ドナルド=ワンドレイに"Raiders of the Universes"という短編がある。アスタウンディング=ストーリーズの1932年9月号に掲載された作品で、現在はプロジェクト=グーテンベルクが無償公開している。The Project Gutenberg eBook of Raiders of the Uni…

空に埋められて

ジョン=シャーリーに"Buried in the Sky"という中編小説がある。冒頭にラヴクラフト&ヒールドの「蝋人形館の恐怖」からの引用が掲げてあり、読者の期待を裏切らずにヨグ=ソトースが登場する神話作品だ。2003年に執筆され、初出はウィアードテイルズの…

二人のアウトサイダー

ダーレスに宛てた1939年4月21日付の手紙でC.A.スミスが次のように述べている。 ラヴクラフト作品集第1巻の収録内容について提案したいことが一つか二つあります。「奥津城」と「死体安置所にて」のどちらかを収録するのであれば、僕としては「死…

そこにいるのは

ベイジル=コッパーに"Out There"という未訳の短編がある。1999年にフェドガン&ブレマーから刊行されたWhispers in the Nightを初出とする作品で、ジェイムズ=アンビュールにいわせると「シャフト・ナンバー247」の続編だそうだ。*1こちらは邦訳が…

エーリヒ=ツァンの遺産

ブライアン=ステイブルフォードのThe Cthulhu Encryptionを8年前に紹介した*1が、同じくオーギュスト=デュパンを主役とするシリーズで"The Legacy of Erich Zann"という中編がある。題名からわかるようにエーリヒ=ツァンの音楽がモチーフになっており、…

フェイグマンのひげ

ラヴクラフトのためにC.A.スミス宛の手紙を代筆してあげたハリー=ブロブストなる人物に一昨日の記事で言及したが、この人はペンシルベニア=ダッチだった。ダッチといってもオランダ人ではなく、ドイツからペンシルベニアに移住してきた人々の子孫だ。 …

カロン

ジョン=グラスビーだってアーカムハウスから作品集を刊行してもらっていれば、我が国でもベイジル=コッパー程度には有名になっていたかもしれないなどと一昨日の記事に書いてしまったが、あくまでも知名度で並べるというだけの話だ。作家としてはコッパー…

気まずいヨグ=ソトース

wikipedia:ヨグ=ソトースに少し加筆してみた。 ユーノーに浮気を知られたときのユーピテルのように、ヨグ=ソトースも気まずい思いをするときがあるに違いないとラヴクラフトは1936年9月23日付のコノヴァー宛書簡で述べている。 こんなことを書いたのだが、…

暗黒最終戦争

ジョン=グラスビーという作家が英国にいた。1928年生まれで、インペリアル=ケミカル=インダストリーズに勤める傍ら小説を大量に書いていたという人物だ。The Plains of Nightmareという題名で彼のクトゥルー神話作品集をアーカムハウスから刊行する計…

ランドリー・迷宮の索引

〈ランドリー〉シリーズの9巻はThe Labyrinth Indexだ。全巻の出来事によって一変した世界を舞台に、ランドリーの新たな戦いが描かれる。 〈ランドリー〉は異次元の魔神に対抗するために英国政府が設立した秘密機関――だったのも今は昔、現在はナイアーラト…

ランドリー・譫妄の摘要

〈ランドリー〉シリーズの8巻はThe Delirium Briefだ。「法律とはソーセージのようなもので、作る過程は見ないほうがいい」というビスマルクの言葉が巻頭に掲げてあり、読む前から不安な気分にさせてくれる。もっとも、ビスマルクが実際にこの発言をしたこ…

ランドリー・悪夢の積層

〈ランドリー〉シリーズの7巻はThe Nightmare Stacksだ。私なりに邦題をつけるとしたら「悪夢の積層」だが、あるいは「俺のエルフ耳の彼女が地球侵略を企てているんだが」のほうがいいかもしれない。 〈ランドリー〉は異次元の魔神に対抗するために英国政府…