新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

スミスの怪談講評

The Best Ghost Storiesというアンソロジーを読んだ感想をクラーク=アシュトン=スミスが1932年3月4日付のダーレス宛書簡で述べている。 すべて読み通し、M.R.ジェイムズの「アルベリックの貼雑帖」が収録作の中で一番よかったという印象を受けま…

ポオとダンセイニとムーア

ラヴクラフトに宛てた1935年5月27日付の手紙でC.L.ムーアがダンセイニとポオの話をしている。 私が何かを薦めるときはいつだってワーズワース風にたなびく栄光の雲で見る眼が曇っているのだろうということを御了承ください。私が十代の頃は、とて…

暗黒のファラオの呪い

本棚の片隅で埃をかぶっていたThe Nyarlathotep Cycleを久々に引っ張り出してみた。1997年にケイオシアムから刊行されたアンソロジーだが、この本にはダンセイニ卿の『ペガーナの神々』から「予言者アルヒレト=ホテップ」と「探索の悲しみ」の2編が収…

アヌビスとの対話

LORE: A Quaint and Curious Volume of Selected Storiesの収録作からもうひとつだけ紹介させていただく。ハーラン=エリスンの"Chatting with Anubis"という作品だ。1995年度のブラム=ストーカー賞を短編部門で獲得しているが、邦訳はない。 アフリカ…

乗り物

昨日に続いてLORE: A Quaint and Curious Volume of Selected Storiesから1編を紹介したい。ブライアン=ラムレイの"The Vehicle"という短編で、Loreの8号(1997年秋季号)が初出だ。 とある英国の沼にフリトニ星人の宇宙船が不時着した。宇宙船といっ…

地底からの挑戦

C.L.ムーアがラヴクラフトに宛てて書いた1935年10月8日付の手紙から。 ファンタジー誌の企画のリレー小説ですが、なんという混乱でしょう。先生の御負担が軽いものであればいいのですが。序章はなるべく奇怪かつ独創的にしてほしいとシュワルツ氏…

ラヴクラフトのクリスマス

ラヴクラフトはクリスマスをどのように過ごしていたのだろうか。1932年の暮れに彼が書いたダーレス宛書簡から訳出してみる。 若きサルダナパール――または豪奢なる若き満州皇帝、その宮廷の奇異にして異国情緒あふれる歓楽について黙想するHsuan-Yi-Kiang…

月の邦は暗々と

ヒポカンパス=プレスからはラヴクラフトの書簡集がたくさん刊行されているが、中でもC.L.ムーア宛のは異色だ。往復書簡集になっているのだが、ムーアから送られたものが大半を占めているので、ムーアのラヴクラフト宛書簡集と呼んだほうが実態に近い。 …

翻訳家スミス

クラーク=アシュトン=スミスはボードレールの詩の英訳を手がけており、時折ウィアードテイルズに掲載されることもあった。*1そして逆に英文を仏訳したこともある。1931年9月18日付のスミス宛書簡でダーレスが依頼したのだ。 お願いがあります。Peop…

カダス夜話

ラヴクラフトは「未知なるカダスを夢に求めて」を1927年1月22日に書き上げたが、その原稿を彼の生前に読んだものは稀だった。ラヴクラフトは1930年9月25日頃のクラーク=アシュトン=スミス宛書簡で次のように語っている。 私が純粋な幻想小説…

帰ってきたスカルフェイス

ロバート=E=ハワードが1931年2月頃に書いたラヴクラフト宛の手紙から。 いいえ、ウィアードテイルズがまた月刊誌になれるかどうかについては何も聞いておりません。でも、そうなってくれると嬉しいですね。あの隔月刊化がなくても僕は売り込み先の雑…

征くぞ、旭日の彼方まで

昨日の記事でタルサ=ドゥームの話をしたが、彼がロバート=E=ハワードの作品に再登場することはなかった。だがハワードの遺した断章をリン=カーターが補って完成させた"Riders Beyond the Sunrise"ではカルとタルサ=ドゥームの因縁の決着が語られている…

猫と髑髏再び

タルサ=ドゥームといえば映画『コナン・ザ・グレート』の悪役として有名だ。彼の初出はロバート=E=ハワードの"The Cat and the Skull"なのだが、これはコナンではなくカルが主役の話だ。 "The Cat and the Skull"はハワードの生前には発表されず、196…

マニトウの葬礼

グレアム=マスタートンのBurialは〈マニトウ〉シリーズの3作目として1991年に出版された。前作とは12年の間隔が空いているが、作中でもそれくらいの歳月が経過したことになっている。 主人公のハリー=アースキンは相変わらずニューヨークで占い師を…

逆襲のマニトウ

Revenge of the Manitouはグレアム=マスタートンの〈マニトウ〉シリーズの2作目だ。伝説の大呪術師ミスクアマカスが再び甦ろうとし、占い師のハリー=アースキンが盟友のジョン=シンギングロックとともに立ち向かう。『マニトウ』はニューヨークが舞台だ…

マニトウ外伝・霊魔の壺

昨日の記事で紹介したとおり、グレアム=マスタートンにはThe Djinnという長編がある。『マニトウ』と同じくハリー=アースキンが主人公の外伝作品で、1977年に刊行された。〈マニトウ〉シリーズの1巻は1975年、2巻は1979年に発表されたので、…

『マニトウ』余話

『マニトウ』はグレアム=マスタートンの長編小説だ。1978年にヘラルド映画文庫から邦訳が出たが、現在では入手困難となっている――と書いてみたものの、私も邦訳は読んだことがない。一方、原書は電子書籍で復刊されており、安く買うことができる。 カレ…

イースの夢

ドゥエイン=ライメルの"Dreams of Yith"がCthulhu Filesで公開されている。 www.cthulhufiles.com これも公有に帰しているということなので日本語に翻訳してみた。 www7a.biglobe.ne.jp "Dreams of Yith"の初出はThe Fantasy Fanの1934年6月号で、題名…

ラヴクラフトが戦死した世界で

Spaceshipは1940年代から50年代にかけてロバート=シルヴァーバーグが発行していたファンジンだ。その17号にレッド=ボッグズの"The Man Who Might Have Been"が掲載されている。ボッグズという人のことを私はまったく知らなかったのだが、ヒューゴ…

3月15日に気をつけろ

本日の記事タイトルはシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」から。The Ides of Marchすなわち3月15日はユリウス=カエサルが暗殺された日として有名だ。さて、ラヴクラフトがジェイムズ=F=モートンに宛てて書いた1930年3月15日付の手紙には…

ダンセイニとラヴクラフトとダーレス

ラヴクラフトがロバート=バーロウに宛てて書いた1934年3月14日付の手紙より。 そうですね――ダンセイニが衰えていることは否めません――ユーモアのセンスが彼の弱点になってしまっているのです。初期の作品は最高ですね――『ペガーナの神々』『時と神々…

ダンセイニとカパブランカ、そしてアレヒン

もう11年も前になるが、ダンセイニ卿はキューバの大棋士ホセ=ラウル=カパブランカとチェスの対局で引き分けたことがあるという記事を書いた。 byakhee.hatenablog.com 念のために断っておくが、二人は対等な立場で指したわけではない。カパブランカは数…

ロナルド=ウィームズの奇跡

昨日の記事で紹介した"Chameleon Man"と似たような話――冴えない男が超能力に目覚めるギャグ小説はロバート=ブロックも書いている。題名を"The Miracle of Ronald Weems"といって、初出はImaginative Talesの第5号(1955年5月号)だ。 adventuresfanta…

カメレオン男

「ラヴクラフト・サークル」の作家たちはほとんどがアーカムハウスで単行本デビューしているが、例外的なのがC.L.ムーアとヘンリー=カットナーだ。カットナーの作品集をアーカムハウスから出す計画はあったのだが、いざ契約を結ぶ段になって折り合いが…

星々の音楽

ドゥエイン=ライメルに"Music of the Stars"というクトゥルー神話短編がある。初出はThe Acolyteの1943年春季号だ。私はTales of the Lovecraft Mythosで読んだのだが、現在では公有に帰しているためCthulhu Filesでも公開されている。 www.cthulhufile…

ミステリ好きのラヴクラフト

ラヴクラフトが1934年11月19日に書いたドゥエイン=ライメル宛の手紙より。 最近ダーレスが彼の推理小説の最新作を私にくれたんですよ――"The Man on All Fours"という題名です――1週間で書き上げた三文小説だというのですが、それにしては非常に頭の…

シャーロットの宝石

ドゥエイン=ライメルに"The Jewels of Charlotte"というクトゥルー神話短編がある。ライメルの作品で邦訳されている「アフラーの魔術」「墓を暴く」「山の木」の3編はすべてラヴクラフトとの合作だが、"The Jewels of Charlotte"も彼の手が加わっているか…

「クトゥルー神話小辞典」余話

フランシス=T=レイニーの「クトゥルー神話小辞典」はThe Acolyteの1942年冬季号に掲載された後、1943年にアーカムハウスから刊行されたBeyond the Wall of Sleepに改訂版が収録された。その刊行に先駆けてダーレスはクラーク=アシュトン=スミス…

月世界ハリウッド

クラーク=アシュトン=スミスがロバート=バーロウに宛てて書いた1938年5月10日付の書簡より。Marvel Science Storiesという創刊されたばかりのパルプ雑誌を買って読んだ感想を述べている。 ところで、この雑誌は掲載作のひとつかふたつで「刺激」へ…

壁の中で叩く音

ダーレスに"A Knocking in the Wall"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1951年7月号で、1976年にアーカムハウスから刊行されたDwellers in Darknessに収録された。その後、ピーター=ヘイニングが編集したPoltergeist: Tales of Deadly …