新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

謎の小箱の話

引き続きThe Fantasy Fanの話だ。「オーガスト=ダーレスの怪奇傑作十選」が掲載された1934年6月号は「彼方より」と「ハイパーボリアの女神」の初出誌でもあった。さらに「文学における超自然の恐怖」が連載中と、なかなか充実した内容だ。 この号には…

食屍鬼の哄笑

昨日の記事で紹介したように、アイオワ大学の図書館でThe Fantasy Fanが無償公開されている。1934年12月号に掲載されているロバート=ブロックの"The Laughter of a Ghoul"を読んでみた。余談だが、この号はラヴクラフトとドゥエイン=ライメルが合作…

クトゥルー神話の三聖が選ぶ怪奇傑作十編

The Fantasy Fanの1934年10月号に「ラヴクラフトの怪奇傑作十選」が載っているそうだ。H.P. Lovecraft's Favorite Weird Talesからの孫引きになるが、その顔ぶれを見てみよう。 ブラックウッド「柳」 マッケン「白い粉薬のはなし」 マッケン「白魔」 …

野ぶどう

ラヴクラフトがダーレスに送った1934年7月16日付の手紙より。 ウィアードテイルズの7月号を読んだのですが、どこをとっても凡庸な内容で、過去最低の部類に入ると思います――それでも例外はありますが。君のブドウの話は見所がありますし、クラーカシ…

灰の地

昨日の記事でママタス&プラットの"The Dude Who Collected Lovecraft"を紹介したが、ティム=プラット単独でのクトゥルー神話小説としては"Cinderlands"がある。2010年にThe Drabblecastで発表された短編で、現在も無料で視聴することが可能だ。 www.dr…

ラヴクラフト蒐集家

『ラヴクラフトの怪物たち』の下巻にはニック=ママタスの「語り得ぬものについて語るとき我々の語ること」が収録されている。彼のクトゥルー神話小説が邦訳されるのは、これが初めてだろう。ラヴクラフトの怪物たち 下発売日: 2020/01/17メディア: Kindle版…

大自然の随筆家

ウィリアム=ブラウニング=スペンサーに"The Essayist in the Wilderness"というクトゥルー神話短編がある。2002年に発表された作品で、2003年度の世界幻想文学大賞候補になった。その後New Cthulhu: The Recent Weirdに収録されている。New Cthulh…

暗闇に一直線

昨日に続いてブライアン=マクノートンのクトゥルー神話作品の話である。彼はSatan's Love Childに続いてSatan's MistressとSatan's Seductressを書いた。この2冊は続き物で、いずれも後に改作されている。Satan's Mistressを書き直したものは題名をDownwar…

双児宮、昇る

ブライアン=マクノートンにGemini Risingというクトゥルー神話長編がある。Satan's Love Childの改作だが、元になったほうの作品を書いたときのことをマクノートンはニュースグループで語っている。 groups.google.com 当時マクノートンは糊口をしのぐため…

『ラヴクラフトカントリー』雑感

マット=ラフの『ラヴクラフトカントリー』を読了した。Lovecraft Country: A Novel (English Edition)作者:Ruff, Matt発売日: 2016/02/16メディア: Kindle版 テレビドラマ化されたことだし、近日中に原作の邦訳が出ることも大いに期待できると思うので、詳…

デュリエ家の悲運

ラヴクラフトがダーレスに宛てて書いた1936年10月24日付の手紙から。 ウィアードテイルズの11月号は読む機会がまだないのですが、10月号はしばらく前に読了しました。エシュバックの作品は絶望的なまでに陳腐ですが、ブロックとカットナーのはと…

赤き朋友の剣

ロバート=E=ハワードに"Swords of the Red Brotherhood"という中編がある。舞台は17世紀の北米大陸、海賊ヴァルミアが主役の物語だ。 ヴァルミアは北米大陸でインディアンに追いかけられている最中だった。彼に族長を殺されたインディアンは絶対に復讐…

ドルーム=アヴィスタの戯れ

ドルーム=アヴィスタという神様がいる。初出はヘンリー=カットナーの"The Jest of Droom-Avista"――というか、クリス=ハローチャ=アーンストの神話作品目録によると他の作品でドルーム=アヴィスタが言及されたことはないそうだ。 wakeupcthulhu.ari-jigo…

「モウリョウ」余話

雨宮伊都さんによると、水木しげるの「モウリョウ」はダーレスとマーク=スコラーの合作が元ネタだそうだ。今日という日にちなんだ豆知識。ゲゲゲの鬼太郎シリーズの一編、「モウリョウ」はオーガスト・ダーレスとマーク・スコラーの合作した「帰ってきたア…

彼らは甦るべし

昨日に続いてダーレスとマーク=スコラーの合作を紹介したい。"They Shall Rise"という中編で、ラヴクラフトはこの作品のために推薦状を書いたことがある。*1ファーンズワース=ライトは他人に影響されやすいようだから、作家たちが互いの作品を推薦し合えば…

蛇の眼

クリス=ハローチャ=アーンストの神話作品目録*1を眺めていたら、ヘンリー=カットナーの"The Toad"という小説が記載されていた。知らない作品だと思いきや、実は"The Frog"のことらしい。それなら「蛙」という邦題で青心社文庫の『クトゥルー』に収録され…

人蛇の怪

ウィアードテイルズの1925年9月号にはフランク=ベルナップ=ロングの"The Were-Snake"が掲載されている。ロングの初期作品のひとつで、後述するようにクトゥルー神話との接点が少しだけあるのだが、私の知る限り邦訳はまだない。 主人公はアジアの某所…

木乃伊の眼

ロバート=ブロックの「セベクの秘密」には"The Eyes of the Mummy"という続編がある。初出はウィアードテイルズの1938年4月号で、その後ブロックの作品集やアンソロジーにちょくちょく収録されているのだが、現在では意外と入手しづらい。ケイオシアム…

イスラムの琴

「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」によると、ジョゼフ=カーウィンが持っていた『ネクロノミコン』は『イスラムの琴』に擬装してあったという。*1この書物は実在し、現在はインターネット=アーカイブで無償公開されている。 archive.org インドのイスラ…

『エイボンの書』の訳本

The Fantasy Fanは1933年から35年までチャールズ=D=ホーニグが発行していたファンジンだが、その1933年11月号をプロジェクト=グーテンベルクが無償公開している。 www.gutenberg.org この号でホーニグはクラーク=アシュトン=スミスに取材…

北極星の赤色世界

クラーク=アシュトン=スミスに"The Red World of Polaris"という作品がある。鋼鉄の精神をもって宇宙を征くヴォルマー船長の物語で、スミスは1930年の夏にカリフォルニアの山々を旅行している間に書き上げたものだ。約1万3000語の長さがあり、ス…

宇宙怪物の巣で

フランク=ベルナップ=ロングが"In the Lair of the Space Monsters"の文章をベイツ編集長に削られてしまったので恨んだと一昨日の記事でラヴクラフトの書簡から引用したが、この短編はストレンジテイルズの1932年10月号が初出だ。 潜水艦が何かと衝…

木彫りの女神

ウィアードテイルズの1933年5月号に掲載された作品ではスミスの「アヴェロワーニュの獣」が最高、ワンドレイの「現れた触手」がそれに次ぎ、自分とスコラーが合作した"The Carven Image"はもっとも劣っているとダーレスは1933年5月3日付のラヴク…

ラヴクラフトと喧嘩別れした作家・補遺

もう6年も前のことになるが、ラヴクラフトと喧嘩別れした作家がいたという記事を書いた。その名をヒュー=B=ケイヴという。ラヴクラフトと喧嘩別れした男 - 新・凡々ブログ 創作活動に関する方向性の違いで別れたとケイヴは回想しているのだが、この出来…

延期された予約

ラムジー=キャンベルがダーレスに宛てて書いた1963年5月12日付の手紙より。 そういえば、こちらではブラックウッドのTales of the Uncanny and Supernaturalがハードカバー版で発売中でして、お値段は驚きの1ドルです! これは手に入れないと。 ブ…

自分の記憶が改竄されていたかもしれないという話

ラヴクラフトに"Memory"という散文詩がある。1919年に発表された作品で、紀田順一郎先生と大瀧啓裕先生による邦訳があるが、ここに拙訳を載せておきたい。なおネット上の先行する試みとして雨宮伊都さんの訳がある。*1記憶 H.P.ラヴクラフト ニスの…

マーモセット

ダーレスとマーク=スコラーの"The Marmoset"という合作がウィアードテイルズの1926年9月号に掲載されている。ルネサンス期のフィレンツェを舞台にした掌編だ。 コモ氏は短剣を握りしめながら夜道を歩いていた。娘の敵を討つため、魔術師マリの家に行く…

シャープス銃の小夜曲

ロバート=E=ハワードに"Sharp's Gun Serenade"という短編がある。ブレッキンリッジ=エルキンズという山男が主人公で、初出はアクションストーリーズの1937年1月号。現在は公有に帰しており、プロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアやウィキ…

ハイエナ

ロバート=E=ハワードに"The Hyena"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1928年3月号で、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアなどが無償公開しているが、私の知る限り邦訳はない。The Hyena 主人公の…

ブラックウッドを布教した人

ラヴクラフトが所蔵していたアルジャーノン=ブラックウッドの著作のうち3冊はダーレスから贈られたものだが、ラヴクラフトにブラックウッドを布教した人といえばジェイムズ=F=モートンだろう。怪奇小説のアンソロジーがダーレスから6冊も送られてきた…