新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2013-01-01から1年間の記事一覧

オークディーンの夜曲

ブライアン=ラムレイの"The Horror at Oakdeene"を4年前に紹介したが(参照)、この話の後日談をジョゼフ=S=パルヴァーが書いている。"The Night Music of Oakdeene"という短編で、彼の作品集であるBlood Will Have Its Season に収録されているが、ネ…

グラーキ最後の黙示

ラムジー=キャンベルのクトゥルー神話中編The Last Revelation of Gla'aki を読んだ。今年の6月にPSパブリッシングから刊行された作品だ。The Last Revelation of Gla'aki作者: Ramsey Campbell出版社/メーカー: PS Publishing発売日: 2013/06/01メディ…

もしかしたら最高の作家に

IS というファンジンの4号でマンリー=ウェイド=ウェルマンが次のように述べている。 将来ダーレスは米国最高の作家になれるかもしれないとロバート=E=ハワードは語っていた。 ハワードはいいやつだが、さすがにダーレスは米国最高の作家ではないだろう…

美しき令嬢

先日デイヴィッド=H=ケラーの"The Beautiful Lady"を読んだ。2000年にアーカムハウスから刊行されたArkham's Masters of Horror にのみ収録されており、他では読むことのできない作品だ。 クトゥルー女体化の元祖として有名になってしまった感のある…

彼が医者をやめた理由

カール=エドワード=ワグナーは精神科医から作家に転身したという経歴の持ち主だ。医者としては落伍したのだといわれることが多かったのだが、ワグナーと親交のあったジョン=メイヤーが真相を語っている。 East of Eden (リンク先のページは音楽が流れる…

前途有望な作家、先行き不安な作家

ラヴクラフトがホフマン=プライスに宛てて書いた1932年11月26日付の手紙から。 実際の生活を描いた文学の話をしましょう――そのような作品を書けるかどうかは、全体としての人間に本物の関心や共感を覚えられるか否かにかかっています。ダーレスはそ…

ラヴクラフトが結婚した理由

1949年、ジェイムズ=ウォーレン=トーマスというブラウン大学の院生がラヴクラフトをテーマにして修士論文を書いた。その論文を彼は書籍として出版しようとしたのだが、実現しなかった。前にもした話だが(参照)、ラヴクラフトの人物像をゆがめている…

なぜ魔女ケザイアは磔刑像を怖れたのか?

ダーレスはラヴクラフトの「魔女の家の夢」に対して辛口の評価だったようで、彼から手紙をもらったラヴクラフトがいじけたことがある(参照)。だが実のところ、この件に関しては後世の研究家たちもおおむねダーレスに同調している。 ドナルド=R=バールス…

怪奇作家にふさわしい名前、もしくは新しい単位の話

Advanced Readings in D&D: August Derleth | Tor.com Tor.comで見かけた記事なのだが、ちょっとおもしろいことがコメント欄に書いてある。 もうひとつ特筆に値するのは、ラヴクラフトもダーレスも信じがたいほど不気味な名前の持ち主なんだが、実際「オーガ…

レッドソニアの物語

ロバート=E=ハワードの"The Shadow of the Vulture"を前に紹介したことがある(参照)。キャラクターを創造するのがこんなに楽しかったことはないとハワードがラヴクラフトに語ったほど彼のお気に入りの作品だったが、私の知る限り邦訳は存在しない。レッ…

ラヴクラフトの描いたクトゥルーの絵

ラヴクラフトその人が描いたクトゥルーの絵がウィキメディア=コモンズで公開されている。 To R.H. Barlow, Esq., whose Sculpture hath given Immortality to this trivial Design of his oblig'd XXXX Servant. ファイル:Cthulhu sketch by Lovecraft.jpg …

魔物の神殿

ロバート=E=ハワードの"The Temple of Abomination"はコーマック=マックアートを主役とする断章である。題名から想像がつくようにクトゥルー神話色が濃厚だが、惜しむらくは未完だ。梗概と、それを基に途中まで書かれた原稿だけが現存している。 物語の…

狼の夜

ロバート=E=ハワードの"The Night of the Wolf"はケルトの戦士コーマック=マックアートが主役の短編だが、ピクト人が出てくるという点でクトゥルー神話大系との接点がある。 物語の舞台となるのはゴララという北海の島。元々ゴララに住んでいるピクトの…

北海の剣

ロバート=E=ハワードに"Swords of the Northern Sea"という短編がある。ハワードの生前は日の目を見ることがなく、1974年にようやく発表されたのだが、ケルトの戦士コーマック=マックアートが主役の作品だ。 コーマック=マックアートはバイキングの…

妄想作品集・ゴル=ゴロス神話

ロバート=E=ハワードの作品では同じモチーフが繰り返し使われ、そのため物語が相互に緩やかな関連性を持っている。その関連性に着目して彼の諸作品をまとめれば、通読したとき一個の巨大な神話世界が見えるんじゃないか――などということを考えてみた。ラ…

世界初の近代潜水艦

www.williammaloney.com ジョン=フィリップ=ホランドが設計した潜水艦フェニアン=ラム。1881年に進水し、世界初の近代潜水艦といわれている。 ホランドの潜水艦はその後も改良を重ね、英米の海軍で就役した。また我が国の海軍でも同じものが第一型潜…

「詩と神々」余話

ラヴクラフトとアンナ=ヘレン=クロフツの合作「詩と神々」には「日本の空に浮かぶ月……」という自由詩が出てくる。ラヴクラフトは自由詩を嫌っていたから、この詩はおそらくクロフツが作ったものだろうと『H.P.ラヴクラフト大事典』には書いてあるが、…

神々の系譜事始

ダーレスがロバート=バーロウに宛てて書いた1934年6月15日付の手紙から。 君の表はおもしろいですね。ロイガーとツァールはクトゥルー・ハスター・ヨグ=ソトースの兄弟であると私は考えていました。もうひとつ注目していただきたいのは、この神話大…

ラヴクラフトの遺著管理者とダーレス

ダーレスがロバート=バーロウに宛てて書いた1945年11月12日付の手紙がA Look Behind the Derleth Mythos: Origins of the Cthulhu Mythos で引用されている。 お送りした『暗黒の儀式』を君が気に入ってくれますように……忌憚のない御意見をお聞かせ…

事実は小説よりも奇なり

W=ポール=クックがジェイムズ=F=モートンから聞いたという話。 モートンが館長を務めるパターソン博物館は彼の尽力のおかげで鉱物標本の展示が非常に充実していたが、まだ欠けている標本があった。とある鉱物は米国東部でしか産出しなかったが、モート…

知性と学歴

エドワード=H=コールが次のように回想している。 ジム=モートンの知性に比肩しうるのはラヴクラフトのみだった。この二人がいる夕べは、神々とともに過ごす時間のようだった。 ジェイムズ=F=モートンのことは前にも紹介したが(参照)、彼はハーバー…

拳聖デンプシー

ラヴクラフトがロバート=E=ハワードから1932年11月2日に受け取った手紙より。 寒冷な天候下におけるラヴクラフトさんの症状はまことに困ったものですね。そのような症状があるとは、ついぞ聞いたことがありませんでした。さぞかしお困りのことだろ…

すばらしき悪役たち

ロバート=E=ハワードは魅力的なヒーローを描くのが非常にうまい作家だが、魅力的な悪役を描くことに長けているという点でも特筆に値する。ハワードの作品から何人か思いつくままに挙げていこう。 タルサ=ドゥーム 登場作品 "The Cat and the Skull" 「我…

ゴール=ニグラル異聞

ラヴクラフトがウィリス=コノヴァーに宛てて書いた1936年8月14日付の手紙から。 君の魔道書目録はまことに印象的であり、私は題名を見ただけで戦慄するほどです。これまでに私が聞いたことのある題名はひとつしかありません――すなわち(あの恐るべき…

ビアスとナイフ投げ

アンブローズ=ビアスはナイフ投げの達人だったとロバート=E=ハワードが1933年3月6日付のラヴクラフト宛書簡で述べている。アドルフェ=デ=カストロが証言していることだそうだが、何それ格好いい。 ビアスの弟子筋に詩人のジョージ=スターリング…

ハイドリヒ暗殺に関するCIA文書

やけに物々しい題名だが、そういうものがアマゾンで出品されている。 http://www.amazon.com/dp/B007QUFTB2 現在は注文不可能になっているが、実際に買った人がレビューを書いている。評価は星一つで「小学生の作文みたいな文章」と実に手厳しい。どんな内容…

ソロモンの杖

セトの指輪はクトゥルー神話の宝具として割と有名だが、それに比べると「ソロモンの杖」はあまり名前が広まっていないようだ。こちらもロバート=E=ハワードが創造したのだが、ソロモン=ケインの物語でしか見かけたことがない。知名度が低いというより、…

酒は飲め飲め

ラヴクラフトと愉快な仲間たちの、お酒にまつわる話。 ラヴクラフト 御存じの通り禁酒主義者。アルフレッド=ガルピンに対して飲酒の害を戒めるため、"Old Bugs"という小説を書いたことがあるほどだ。ただし晩年は態度を軟化させ、本人は相変わらず一滴も酒…

マーク爺さん

ダーレスの初期の作品に"Old Mark"という短編があるが、これはラヴクラフトの意見が大きく反映されているという点で興味深い。 物語の舞台はウェールズのニューポート郊外にあるカーリアン。かつてローマ帝国の第2軍団アウグスタが駐屯し、その際に築かれた…

作家が天文学を学べば役に立つ

ラヴクラフトは1936年6月5日付のダーレス宛書簡で天文学の勉強を勧めている。 天体――月・惑星・星座など――の運行に関する知識があれば、どんな作家にとっても役に立ちます。雰囲気を盛り上げるための素材になりますし、おかしな勘違い(夕方の東天に金…