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いなくなったママ

 マーティン=グリーンバーグの編集した吸血鬼アンソロジーといえばVampires: The Greatest Storiesがある。タニス=リーの「血のごとく赤く」やフィリップ=K=ディックの「クッキーおばさん」など、この本に収録されている作品は邦訳済のものが多いのだが、その中にあって取り残されているのがジェイン=ヨーレンの"Mama Gone"だ。

Vampires: The Greatest Stories

Vampires: The Greatest Stories

  • 発売日: 1997/08/01
  • メディア: ハードカバー
 主人公はマンディ=ジェインという少女。4日前にお母さんを亡くしたばかりだ。お母さんは吸血鬼の血を引いていたので、四肢を切り落としてから口にニンニクを含ませて埋葬しなければならないはずだった。だが村の牧師であるお父さんはお母さんのことをあまりにも愛していたので、そのような酷薄なことをするに忍びなかったのだ。
 果たせるかな、お母さんは墓場から甦って村人を襲いはじめた。グリノー家の赤ん坊が犠牲になる。牧師様のすることだからと掟破りを大目に見てくれた村人たちも、こうなっては黙っているわけにいかない。彼らは鋭い杭を用意し、お父さんのところへやってきた。
「私の責任だ」といって、お父さんは自らの手でお母さんを屠ることにした。お母さんを家の中に誘いこんで止めを刺そうという作戦だ。しかしマンディ=ジェインは夜中にこっそり家を抜け出して墓場へ行き、かつて自分の母親だったものに立ち向かう。
 マンディ=ジェインは吸血鬼を寄せつけずに時間を稼ぐ。夜が明けるまで粘れば彼女の勝ちだ。お母さんと対峙しながら、マンディ=ジェインは家族の思い出を語って聞かせた。
 お母さんは最後に一瞬だけ人間の心を取り戻し、朝日を浴びて灰になりながら娘に微笑みかける。それまで一度も涙を流さなかった少女がお母さんの最期を見届け、堰を切ったように泣き出す場面が哀切だ。悪くない話だと思うのだが、このアンソロジーには他にも未訳作品がある。実はそちらが真打ちなのだが、紹介するのは明日にしたい。