新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2014-01-01から1年間の記事一覧

年下の先生

ラヴクラフトはダーレスにアルフレッド=ガルピンの指導を任せていたと先日の記事で申し上げた。*1その経緯をガルピン本人が振り返っているので、訳出してみよう。 小説の執筆に取り組んでいた私は、実践的な指導をしてくれる人を紹介してくれないかとハワー…

もしも『ネクロノミコン』が実在したら

T.E.D.クラインの「角笛を持つ影」に次のような一文がある。 もし『ネクロノミコン』が実在したとしても、いまならリン=カーターの序文つきでペーパーバックとして出版されることだろう。 カーターの名が出てくるあたりは楽屋落ちだが、後の版では彼…

深きものの日

ピーター=キャノンの書くクトゥルー神話作品は楽屋落ちがすごいのだが、"It Was the Day of the Deep One"も御多分に漏れない。 94歳で亡くなった大おじの遺品を主人公が整理していると、緑色の日記帳が見つかった。イヴァニッキ神父から大おじの手に渡っ…

緑の大聖堂を去って

ウィスコンシン州ソークシティにはダーレス橋だのダーレス公園だのがあるという話は以前したかもしれないが、さらにソークシティ公立図書館の地下には「オーガスト=ダーレスの部屋」があるそうだ。その部屋に展示されているダーレスの肖像画を、同図書館の…

作家の年収

ダーレスとラムジー=キャンベルは10年間も文通していたので、彼らの手紙には結構いろいろなことが書いてある。たとえばダーレスの1963年4月9日付書簡によると、1962年の彼の収入は2万9555ドルだったそうだ。 単純に購買力で換算すると、1…

変な励まし方をするラヴクラフト

ウィアードテイルズの1927年1月号にはラヴクラフトの「レッドフックの恐怖」とダーレスの"The Night Rider"が掲載されている。前者は今さら説明する必要もないだろうが、後者は中世イタリアを舞台にした掌編で、騎馬武者姿の息子が夜中に家の前を走りす…

友達の前で裸になる男

サム=モスコウィッツの随筆で紹介されている話。ダーレスの奥さんだったサンドラ=カイザーが息子のウォールデンに語ったことだそうだ。 ダーレスは裸の時でもかまわず、窓から人々に「お入りなさい」と大声で呼びかけるものだから彼女は肝を冷やしたのだと…

私を愛した半魚人

エリザベス=ベアに"Follow Me Light"というクトゥルー神話小説がある。米国のネバダ州を舞台とし、アイザック=ギルマン(愛称ピンキー)という弁護士が主役の短編だ。ピンキーは太った蛙を思わせる醜い姿をしており、足が不自由だが、すばらしい美声の持ち…

アルハザードの子孫は新聞記者

米国にフランクリン=シーライトというクトゥルー神話作家がいる。「暗恨」「知識を守るもの」を書いたリチャード=F=シーライトの息子なのだが、親子二代にわたってクトゥルー神話を書き続けるというのは珍しい。 そのフランクリン=シーライトが書いた"T…

アイドル

スコット=デイヴィッド=アニオロフスキに"The Idol"というクトゥルー神話短編がある。 アイドル歌手のミッキーはマネージャーのサムの反対を押し切ってマサチューセッツ州インスマスを訪れる。インスマスにはミッキーの先祖の墓があった。 魚顔の人たちが…

日本映画とラヴクラフト・サークル

ダーレスがラムジー=キャンベルに宛てて書いた1963年3月7日付の手紙から。 昨日、映画を観て帰宅すると君の2日付の手紙が届いておりました。私が観てきたのは「用心棒」といって、日本流「西部劇」の新作です――流血を始めとする暴力がふんだんに盛り…

アーカムへの手紙

世界一のラヴクラフト研究家として高名なS.T.ヨシはダーレス批判の急先鋒だが、同時にラムジー=キャンベルの大ファンでもある。どれほどのファンかというと、たとえば次のように述べているのだ。 キャンベルたんはマッケンやブラックウッドやラヴクラフ…

ラヴクラフト・サークルの師範代

森瀬繚さん(id:Molice)とtyokorataさん(id:tyokorata)のやりとり。御存知のこととは思いますが、ダーレスはラヴクラフトの生前から交流がありますので念のため。 @kibatori2646 HPLとダーレスの関係に似てる肝 RT @tyokorata: 先生の没後に押しかけてき…

ラヴクラフトに捧げるラブソング

The Xothic Legend Cycle はリン=カーターのクトゥルー神話作品集である。同書に対するW.H.パグマイアの書評を見てみよう。 こういう作品は陳腐で退屈で非ラヴクラフト的だと皆さん非難してきたわ。でも私はカーターの作品を何度も読み返している。それ…

京都のウィギワガ博物館

1734年3月28日付*1のジェイムズ=F=モートン宛書簡でラヴクラフトは「ツァトゥグアの眼」の話をしている。 忘れ去られし太古の世界より受け継がれてきたのは地獄めいた石の秘密――『エイボンの書』でほのめかされている『ツァトゥグアの眼』のことを…

ツァトゥグアの眼

W.H.パグマイアの"Yon Baleful God"は「ツァトゥグアの眼」と呼ばれる宝石を題材にした掌編である。この宝石はパグマイアが創造したものではなく、ラヴクラフトのジェイムズ=F=モートン宛書簡が初出だ。 物語の舞台はセスカ峡谷。語り手であるアダム…

『クトゥルーの子供たち』余話

最近エンターブレインから刊行された『クトゥルーの子供たち』について、訳者の森瀬繚さん(id:molice)がツイートしている。#cthulhujp クトものの翻訳では、こういう具合に「他の作品、文章の参照が不可避な文言」が多く、ひとにぎりの翻訳者に集中しがち…

ユニコーン伝説の真相

2014 Hugo Award Winners | The Hugo Awards チャールズ=ストロスのクトゥルー神話中編"Equoid"が今年度のヒューゴー賞を受賞した。ストロスは以前「コンクリート・ジャングル」でも受賞しているので、神話作品で二度もヒューゴー賞を獲ったことになる。 "E…

ラヴクラフト・サークルの格好悪い兄貴

かっこいい連中が揃っている「ラヴクラフト・サークル」の中にあって、いかにも冴えないのがフランク=ベルナップ=ロングだ。1901年生まれの彼は年長組に属するのだが、ダーレスとかブロックといった後輩に比べると情けなさが際立っている。 「どうして…

インスマス一斉検挙のその後

ブライアン=ホッジに"The Same Deep Waters as You"というクトゥルー神話短編がある。この題名は英国のロックバンド・ザ=キュアーの"The Same Deep Water as You"をもじったものらしいが、1928年の一斉検挙で逮捕されたインスマスの住民がその後どうな…

インスマスで視聴率40%

C.J.ヘンダーソンに"A Forty Share in Innsmouth"というクトゥルー神話作品がある。ブライアン=ラムレイを顕彰するアンソロジーSingers of Strange Songs のために書き下ろされた作品で、ラムレイの"The Kiss of Bugg-Shash"の後日談だ。 バグ=シャー…

あなたも共犯者

ケイオシアムが一向に原稿料を支払ってくれないとゲイリー=サンプターがYog-Sothoth.comで不満をぶちまけたことがある。 An Open Letter To Chaosium - Cthulhu General - Yog-Sothoth すると「俺も払ってもらってないよ」「俺も俺も」と名乗りを上げるクリ…

深きものどもの帰還

スチュアート=ゴードン監督の映画「ダゴン」は「インスマスを覆う影」が原作ということになっているが、結末はむしろブライアン=ラムレイの"The Return of the Deep Ones"に近い。 "The Return of the Deep Ones"は1984年に発表された作品。主人公はジ…

荒野の下に

ブライアン=ラムレイの「大いなる帰還」という短編が『真ク・リトル・リトル神話大系』(国書刊行会)に収録されている。自分がボクラグの一員であることを知った主人公ロバート=クラグがヨークシャーの地下の都に帰っていくという話だが、この作品を基に…

ラヴクラフトとゲーム

ゲームにおけるラヴクラフティアンの純正主義についてダニエル=ハームズが論じたことがある。 そもそも、ゲームなんてどれもバカげているとラヴクラフトなら考えそうなものだ。 Purism in Lovecraft Gaming: A Rant | Papers Falling from an Attic Window …

ショゴス対メカショゴス

ウィリアム=ブラウニング=スペンサーに"The Dappled Thing"という短編がある。 孫娘のラヴィニアが行方不明になったので探してほしいとアディソン卿から依頼されたバートラム=ラッジ卿がアフリカに出かけていくところから物語は始まる。ラヴィニアは大富…

ラヴクラフトと喧嘩別れした作家

ヒュー=B=ケイヴはラヴクラフトと文通していたと前回の記事で述べたが、実はケイヴもラヴクラフトと同じくロードアイランド州に住んでいた。彼は全米創作ギルドのロードアイランド支部長を務めており、ラヴクラフトに勧誘の手紙を書いたことがきっかけと…

アルハザードの第二の書

Song of Cthulhu という本がケイオシアムから刊行されている。音楽をテーマにしたクトゥルー神話アンソロジーだが、これに参加している作家のうち最年長なのがヒュー=B=ケイヴ。単に長老であるのみならず、ラヴクラフトと文通したこともある作家だ。 ケイ…

ラヴクラフトとヒトラー

ラヴクラフトはヒトラーの『我が闘争』を読んで感激したという話がある。モーリス=レヴィのLovecraft: A Study in the Fantastic によれば、これはソニア=グリーンの証言が出所だそうだ。だが『我が闘争』の英訳版が刊行されたのはラヴクラフトがグリーン…

非弾性衝突

エリザベス=ベアは「ショゴス開花」でヒューゴー賞を受賞したが、彼女には"Inelastic Collisions"というクトゥルー神話作品もある。 グレッチェンとタマラの姉妹がプールバーでビリヤードをしているところから物語は始まる。二人ともスレンダーな美女の姿を…