新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

向こう側で会いましょう

 3日ばかり吸血鬼の話が続いたが、The Children of Cthulhuに話題を戻す。同書に収録されている短編のひとつがイヴォンヌ=ナヴァロの"Meet Me on the Other Side"だ。
 ポールとメイシーは冒険家の夫婦。世界を股にかけ、ビルマの奥地では怪物に追いかけながら神殿のルビーを盗み出したりもした。今、二人はアリゾナの砂漠にいる。目的地はいずこにあるとも知れぬ都ベツムーラ、ポールが手がかりを得るために読んでいるのはダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』だ。
 眠りに落ちたポールとメイシーが目を覚ますと、そこは幻夢境だった。ビルマの神殿から盗み出したルビーをメイシーはずっと首にかけていたが、それが鍵となって二人はベツムーラに足を踏み入れる。ベツムーラは壮麗きわまりない都市だったが、なぜか無人だった。その時、ポールとメイシーの前に現れたのは双子の邪神ロイガーとツァールだった。
 メイシーは自分たちの妻となる定めであると双子の邪神は告げる。かつて、生贄として選ばれた女性がロイガーとツァールの子を産み、その子が500年にわたってベツムーラを支配することになっていた。ところが一人の侍祭が秘密を暴露したため、恐慌を来した人々は都を捨てて逃亡し、以来ベツムーラは無人となったのだ。メイシーは生贄となるはずだった女性の末裔であり、ベツムーラへの鍵となるルビーを彼女が手に入れたのも宿命ゆえのことだった。
「次元の壁が脆くなっている。二つの世界は融合するであろう」
 どうやら、幻夢境だけでなく現世も旧支配者の手に落ちるようだ。メイシーは3日かけて孕まされ、さらに7日かけて子を産むことになっていた。ポールに用がないなら、彼だけでも現世に帰してやってほしいとメイシーは双子の邪神に頼む。ロイガーとツァールの子が生まれるまで10日、その間に逃げられるだけ逃げてほしい……。
 赤と紫の光がポールを包み、彼の姿が消えた。旧支配者の手で現世に転送されたのだ。私はきっと乗り切ってみせる、生きてポールと再会するんだ――そう心に誓って、メイシーはロイガーとツァールに向かっていった。
 いうまでもなくベツムーラはダンセイニ卿の創造した都だが、そこにロイガーとツァールがいるというのはカツオにマヨネーズをつけて食べるような話だ。もっともマヨネーズは案外カツオに合うそうなので、これでいいのだろう。*1
 作者のナヴァロは1957年生まれ。この人のことは私もよく知らないのだが、映画のノベライズがいくつか邦訳されているようだ。