新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2009-01-01から1年間の記事一覧

よくある誤解

H.P.ラヴクラフトの著作には、クトゥルーやハスター、ニャルラトホテプといった太古の神々は登場するものの、彼らは人間の考える善悪を超越した存在であるとされています、善なる「旧神」と邪悪な「旧支配者」の対立、そして地水風化の属性などといった後付…

白雪姫よ、静かに眠れ

お値段はちと張りますが、河出書房新社からライバーの短編集が。 元祖『綿の国星』ともいえる(ちょっと嘘)「ガミッチ」シリーズは全編(既訳は4作だっけ?)収録されるのでしょうか。 他のラインナップも気になりますが、ヒューゴー・ウィナーの『骨のダ…

ヨグ=ソトース・ネブロド・ジン

ラヴクラフトの「チャールズ・デクスター・ウォード事件」に出てくる謎の言葉「ヨグ=ソトース・ネブロド・ジン」の意味について、ダニエル=ハームズが友人から聞いたという説がある。 Google グループ "Neblod Zin"はエノク語の"Nobloh Zien"が転訛したも…

映画『黄の印』

映画監督アーロン=ヴァネックの代表作といえば長編『黄の印』だろうが、日本のアマゾンでは買えないようだ。仕方がないので米アマゾンの方にリンクを貼っておく。 若き画廊主テス=リアドン(演じるのは『リトル・ジャイアント』のショーナ=ウォルドロン)…

ラヴクラフティアン・カクテル

オレゴン州ポートランドで開催されたH.P.ラヴクラフト映画祭の様子をアーロン=ヴァネックが伝えている。 http://www.examiner.com/examiner/x-5200-LA-Cocktails-Examiner~y2009m10d31-Twelve-Lovecraftian-cocktails-from-the-HP-Lovecraft-Film-Festi…

アルバート=モアランドの夢

フリッツ=ライバーの初期の作品に"The Dreams of Albert Moreland"という短編がある。途方もなく強大な不可視の敵を相手に、チェスに似た奇怪なゲームを夢の中で指し続ける男の話だ。初出は『アコライト』の第10号(1945年春季号)で、1947年にア…

無視されたライバー

eFanzines.com - Earl Kemp: e*I* Vol. 8 No. 1 ジェラルド=W=ペイジがリン=カーターについて語っている。「リン=カーターという矛盾」なる題名からわかるようにカーターの長短両面を指摘しているのだが、興味深い逸話がおしまいに披露されている。 1…

クトゥルー神話の正統と異端

で、具現化した「星の戦士」(この存在自体はけっこう胡乱だと思うけど)の一柱として「光の巨人」、ティガを持ってきたのか。 「この銃がいいね」と君が言ったから - 泡沫の日々@はてな 旧神が胡乱でないのに星の戦士が胡乱だとすれば、それは後者が単発ネ…

ラヴクラフトの旅行

森瀬さん(id:molice)から教えてもらったのだが、廣済堂文庫から出た『よくわかる「世界の怪人」事典』でラヴクラフトが紹介されている。読んでみると、こんなことが書いてあった。 ひきこもりの怪奇小説作家、ラヴクラフト。彼は読者や同好の士とのひんぱ…

クトゥルー神話の三聖

わたしはしかるべき方法を探し求めた。国じゅうに孤立して住む思想家や夢想家と地道に文通をかわすようになった。西部の丘陵地帯には隠者が、北部の荒地には碩学が、ニューイングランドには不思議な夢想家がいた。 ロバート=ブロック「星から訪れたもの」よ…

クトゥグア

しかし、どうもエレメント設定を持ち込んだときに空席だった火の枠を埋めるためだけに考案された神だという気がします。 クトゥグア - そっちはそっちの気晴らし、こっちはこっちの気晴らし ロバート=プライスによると、まさにその通りだそうだ。リチャード…

ダレット伯爵は人格者だった?

『屍食教典儀』の著者であるダレット伯爵は実は高潔な人物だったという説が『「クトゥルフ神話」がよくわかる本』で紹介されている。ダレット伯爵は邪悪な人物ではなかったとラヴクラフトが述べたことがその典拠とされているのだが、これは明らかに『図解ク…

比べてみれば

ラヴクラフトとダーレスを比較してみる。 ハワード=フィリップス=ラヴクラフト オーガスト=ウィリアム=ダーレス 生誕 1890年8月20日 1909年2月24日 死去 1937年3月15日(享年46) 1971年7月4日(享年62) 住所 ロードア…

灰色の物質

アーサー=マッケンの「黒い石印」からグレッグ教授の言葉を引用する。 Life, believe me, is no simple thing, no mass of grey matter and congeries of veins and muscles to be laid naked by the surgeon's knife; man is the secret which I am about …

天本英世とスミス

天本英世とC.A.スミスは何となく雰囲気が似ていると前々から思っていたのだが、実は背格好がほぼ同じらしい。二人とも身長180センチ、体重65キロなのだ。なお、この二人はスペイン文学に造詣が深かったりアナーキストだったりと、背格好以外にも共…

探偵と議員

事件記者ハリガンのシリーズの中で「探偵と議員」(The Detective and the Senator)は珍しく政治色が強い。中西部出身のマデルタップという上院議員が登場するのだが、どう見てもモデルはジョゼフ=マッカーシーだ。 ハーバード大学元教授のファラーが新し…

事件記者ハリガン

ダーレスのHarrigan's File は、ベテラン記者のテックス=ハリガンを狂言回しとする連作短編集である。1975年にアーカムハウスから刊行され、全部で17の短編が収録されているが、そのほとんどは1950年代に発表されたものだ。いずれもハリガンが見…

ラドーの誕生日

ダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』ではアレクシス=ラドーの誕生日を1794年10月28日としているが、これはスティーヴン=マーク=ハリスという人の唱えた説だ。ハームズのブログのコメント欄でハリス本人がその旨を述べてい…

セトの指輪

『マレウス・モンストロルム』ではナイアーラトテップの化身としてエジプトの邪神セトが挙げられているが、これには異説も存在する。リチャード=L=ティアニーによるとセトはハスターの化身であり、こちらの説の方が個人的には好きだ。 ティアニーの「セト…

ムノムクア

【ワシントン=勝田敏彦】米航空宇宙局(NASA)は米東部時間9日午前7時31分(日本時間同日午後8時31分)、氷の存在を調べる無人月探査機LCROSS(エルクロス)から切り離した2段目ロケットを月の南極に近いクレーター、カベウスに衝突させ…

黄の印余話

今日、黄の印として一般に知られているのはケヴィン=ロスがケイオシアムのためにデザインしたもの(参照)だが、これにまつわる裏話をダニエル=ハームズがThe Cthulhu Mythos Encyclopedia で紹介している。ハームズによると、ケイオシアムの出版物に印刷…

キウンとサクテ

星間宇宙の大帝ハスターの配下といえば、ロイガーを筆頭とする風の諸神が有名だが、比較的マイナーな〈夜の王〉サクテをここでは紹介してみたい。サクテはそもそも旧約聖書の「アモス書」で言及されている存在である。 イスラエルの家よ。あなたがたは、荒野…

最高の瞬間

ロバート=E=ハワードに"The Supreme Moment"という短編がある。非常に短いが、なかなか強烈な話なので紹介しておこう。この作品はハワードの生前には公表されず、死後数十年を経てから『クトゥルーの窖』(Crypt of Cthulhu)でようやく日の目を見た。ま…

ラヴクラフトとナチス

オクラホマ州立大学名誉教授のハリー=ブロブストは若い頃プロヴィデンスに住んでおり、ラヴクラフトと親しかった。ブロブストは次のように回想している。*1 シェパード夫人という人がプロヴィデンスの学校でドイツ語を教えておりましてね──彼女はカレッジ街…

円柱都市アイレム

An H. P. Lovecraft Encyclopedia によると、ラヴクラフトはアイレムのことをブリタニカ大百科で知ったらしい。 「無名都市」がもっぱら夢から着想を得た作品であることをHPLは認めている。そして彼がその夢を見るきっかけとなったのは、ダンセイニの「驚…

セネカ=ラファム

インクリーズ=アレン=ラファムという人の略伝をウィスコンシン大学マディソン校の図書館のサイトで読むことができる。 WER: I. A. Lapham, First scholar of Wisconsin この人は開拓時代のウィスコンシンで活躍した学者だそうだが、父親の名前がセネカ=ラ…

ラムレイ神話の世界

ブライアン=ラムレイのクロウ・サーガは六部作ということになっているが、実のところ第4部と第5部にはタイタス=クロウは出てこず、その間はアンリ=ローラン=ド=マリニーとハンク=シルバーハットの二人が活躍する。つまりクロウ・サーガの主役はクロ…

ラヴクラフトとダンセイニ

ダンセイニ卿がダーレスに宛てて書いた1952年3月28日付の手紙がAn H. P. Lovecraft Encyclopediaで引用されている。 ラヴクラフト氏の作品をいくつか読んで、氏は私の流儀で書いていたのだということがわかりました。完全に独創的であり、私からの借…

ビアス終焉の地

アンブローズ=ビアスは1914年に革命下のメキシコへと旅立ち、そのまま消息を絶った。今日に至るまで彼の最期は明らかでないが、パンチョ=ビリャの率いる革命軍に身を投じて政府軍に殺されたのではないといわれている。コアウイラ州のシエラ=モハダで…

ヨグ=ソトースとウムル=アト=タウィル

銀の鍵の門を越えて - そっちはそっちの気晴らし、こっちはこっちの気晴らし この記事の本筋とはあまり関係ないのだが、ウムル=アト=タウィルは本当にヨグ=ソトースの化身なのかという問題がある。もう10年以上も前にクトゥルーMLで指摘されたことだ…