新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

宇宙の掠奪者

 ドナルド=ワンドレイに"Raiders of the Universes"という短編がある。アスタウンディング=ストーリーズの1932年9月号に掲載された作品で、現在はプロジェクト=グーテンベルクが無償公開している。

The Project Gutenberg eBook of Raiders of the Universes, by Donald Wandrei

 時は34世紀。ある晩、フォバーという天文学者ヘラクレス座の方角に4等星を発見した。次の夜、より地球に近い場所に次の星が現れる。夜ごとに新しい星が観測され、その数は七つまで増える。なお四次元を利用することにより、何百光年も離れた地点で起きている現象をリアルタイムで観察する技術がすでに開発されているということになっている。
 太陽系の縁辺に暗黒の天体が出現し、同時に海王星の軌道が狂いはじめた。土星がそれに続く。暗黒の天体は太陽に向けてビームを放射し、それを通じて太陽からエネルギーを吸収しているようだった。
 地球上では天変地異が頻発するようになった。突如として現れた暗黒の天体が引き起こしているに違いない。人類は恐慌状態に陥り、惑星連邦は未曾有の危機にさらされる。その最中にフォバーはオレンジ色の怪光線を浴び、暗黒の天体に転送された。そこには巨大な金属の生命体が住んでおり、フォバーは彼らの元首に謁見する。
「予はガルボレグ、宇宙の帝王である」
 帝王は彼らの歴史をフォバーに語る。彼らは外宇宙で誕生したが、死滅しつつある母星を見捨てて流浪の旅に出た。暗黒の天体は彼らの建造した宇宙船であり、七つの星は彼らに焼き滅ぼされた文明の名残だった。地球のラジウムをすべて採掘して供出せよと帝王はフォバーに命じ、示威行動としてニューヨークを瞬時に壊滅させる。
 人類を遙かに上回る科学と技術を帝王はフォバーに見せつけたが、傲慢さゆえの油断か、人工惑星上のものをすべて縮小させてしまう装置があると口を滑らせる。フォバーは相手の隙を突き、その装置を一か八かの賭で作動させた。たちまち帝王とその臣下のものたちは縮んでしまったが、外宇宙の出身でないフォバーは装置の影響を受けなかった。
 身体の大きさが逆転したフォバーは暴れ回り、人工惑星を動かす装置を破壊してから転送光線で脱出する。地球に戻ってきたフォバーがおそるおそる望遠鏡を覗くと、暗黒の天体は消えていた。侵略者の脅威は去り、惑星連邦は再建されることになる。そして人知らず人類を救ったフォバーは一日ぐっすりと眠ったのだった。
 前半の絶望的な描写がすさまじいのだが、それに対して収拾のつけ方は安直で、ちぐはぐな印象がある。発想はおもしろいのだが、粗も多いとラヴクラフトは1931年11月6日付のダーレス宛書簡で評した。発表の媒体がパルプ雑誌であったことがワンドレイの不運というべきかもしれない。