新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

イスラムの琴

「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」によると、ジョゼフ=カーウィンが持っていた『ネクロノミコン』は『イスラムの琴』に擬装してあったという。*1この書物は実在し、現在はインターネット=アーカイブで無償公開されている。 archive.org インドのイスラ…

『エイボンの書』の訳本

The Fantasy Fanは1933年から35年までチャールズ=D=ホーニグが発行していたファンジンだが、その1933年11月号をプロジェクト=グーテンベルクが無償公開している。 www.gutenberg.org この号でホーニグはクラーク=アシュトン=スミスに取材…

北極星の赤色世界

クラーク=アシュトン=スミスに"The Red World of Polaris"という作品がある。鋼鉄の精神をもって宇宙を征くヴォルマー船長の物語で、スミスは1930年の夏にカリフォルニアの山々を旅行している間に書き上げたものだ。約1万3000語の長さがあり、ス…

宇宙怪物の巣で

フランク=ベルナップ=ロングが"In the Lair of the Space Monsters"の文章をベイツ編集長に削られてしまったので恨んだと一昨日の記事でラヴクラフトの書簡から引用したが、この短編はストレンジテイルズの1932年10月号が初出だ。 潜水艦が何かと衝…

木彫りの女神

ウィアードテイルズの1933年5月号に掲載された作品ではスミスの「アヴェロワーニュの獣」が最高、ワンドレイの「現れた触手」がそれに次ぎ、自分とスコラーが合作した"The Carven Image"はもっとも劣っているとダーレスは1933年5月3日付のラヴク…

ラヴクラフトと喧嘩別れした作家・補遺

もう6年も前のことになるが、ラヴクラフトと喧嘩別れした作家がいたという記事を書いた。その名をヒュー=B=ケイヴという。ラヴクラフトと喧嘩別れした男 - 新・凡々ブログ 創作活動に関する方向性の違いで別れたとケイヴは回想しているのだが、この出来…

延期された予約

ラムジー=キャンベルがダーレスに宛てて書いた1963年5月12日付の手紙より。 そういえば、こちらではブラックウッドのTales of the Uncanny and Supernaturalがハードカバー版で発売中でして、お値段は驚きの1ドルです! これは手に入れないと。 ブ…

自分の記憶が改竄されていたかもしれないという話

ラヴクラフトに"Memory"という散文詩がある。1919年に発表された作品で、紀田順一郎先生と大瀧啓裕先生による邦訳があるが、ここに拙訳を載せておきたい。なおネット上の先行する試みとして雨宮伊都さんの訳がある。*1記憶 H.P.ラヴクラフト ニスの…

マーモセット

ダーレスとマーク=スコラーの"The Marmoset"という合作がウィアードテイルズの1926年9月号に掲載されている。ルネサンス期のフィレンツェを舞台にした掌編だ。 コモ氏は短剣を握りしめながら夜道を歩いていた。娘の敵を討つため、魔術師マリの家に行く…

シャープス銃の小夜曲

ロバート=E=ハワードに"Sharp's Gun Serenade"という短編がある。ブレッキンリッジ=エルキンズという山男が主人公で、初出はアクションストーリーズの1937年1月号。現在は公有に帰しており、プロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアやウィキ…

ハイエナ

ロバート=E=ハワードに"The Hyena"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1928年3月号で、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアなどが無償公開しているが、私の知る限り邦訳はない。The Hyena 主人公の…

ブラックウッドを布教した人

ラヴクラフトが所蔵していたアルジャーノン=ブラックウッドの著作のうち3冊はダーレスから贈られたものだが、ラヴクラフトにブラックウッドを布教した人といえばジェイムズ=F=モートンだろう。怪奇小説のアンソロジーがダーレスから6冊も送られてきた…

復讐するは我にあり

アルジャーノン=ブラックウッドに"Vengeance Is Mine"という短編がある。1921年に発表され、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルクなどが無償公開している。まだ邦訳はない模様だ。The Wolves of God, and Other Fey Stories by Al…

ラヴクラフトとブラックウッド

ダーレスは1927年からアルジャーノン=ブラックウッドと文通していた。ダーレスにとってブラックウッドはラヴクラフトやC.A.スミスに次いで重要な作家だったようで、1963年5月16日付のラムジー=キャンベル宛書簡で「アーカムハウスを立ち上…

嵐に散る花

昨日の記事で紹介したケネス=スターリングの回想記は、1999年にアーカムハウスから刊行されたLovecraft Rememberedに収録されている。 hplovecraft.com ラヴクラフトの形をした雲を背景とし、彼にゆかりのある人々が一堂に会しているという幻想的な表紙…

人には測り知れざる洞窟

ラヴクラフトの友人だったケネス=スターリングの回想記は"Caverns Measureless to Man"という題名で、これはサミュエル=コールリッジの「クーブラ=カーン」の一節に因んだものだと一昨日の記事で申し上げた。スターリングはラヴクラフトと「エリックスの…

怖れを知らない女の子

昨日の記事で取り上げたゲイマンの掌編はすばらしい作品だと思うのだが、あまりに暗澹としていることは確かだ。そこで、同じFearie Talesの収録作から今度は明るめの話としてマルクス=ハイツの"Fräulein Fearnot"を紹介したい。なおドイツ語で書かれた小説…

流れ流れて無明の海へ

Fearie Tales: Stories of the Grimm and Gruesomeという恐怖小説のアンソロジーがある。世界幻想文学大賞を4回も受賞した大物編集者スティーヴン=ジョーンズが手がけた本で、グリム童話をモチーフとしている。収録された作品のひとつがブライアン=ラムレ…

プロヴィデンスに春が

ダーレスがラヴクラフトに捧げた挽歌がブラウン大学図書館の公式サイトで無償公開されている。初出はRiverという文芸誌で、その後1944年にアーカムハウスから刊行されたMarginaliaに収録された。Brown Digital Repository | Item | bdr:421445 ブラウン…

七風の都

『マレウス・モンストロルム』(以下マレモンと略す)に載っている「風の子ら」はハスターかイタカの眷属だろうと思いきや独立種族ということになっているのだが、この設定はおそらく来歴に理由があるのだろう。出典となったのはジョゼフ=ペイン=ブレナン…

柳の祭壇

元々はローマ神話の神であるスムマヌスが旧支配者として『マレウス・モンストロルム』(以下マレモンと略す)に載っているのは、出典となった"What Dark God?"の作者がブライアン=ラムレイであることだけが理由だろうという話を昨日した。クトゥルー神話と…

いかなる暗き神か?

ブライアン=ラムレイに"What Dark God?"というクトゥルー神話短編がある。1975年にアーカムハウスから刊行されたNameless Placesを初出とし、その後いくつかの作品集に再録された。いま読むのであればHaggopian and Other Storiesが入手しやすいだろう…

向こう側で会いましょう

3日ばかり吸血鬼の話が続いたが、The Children of Cthulhuに話題を戻す。同書に収録されている短編のひとつがイヴォンヌ=ナヴァロの"Meet Me on the Other Side"だ。 ポールとメイシーは冒険家の夫婦。世界を股にかけ、ビルマの奥地では怪物に追いかけなが…

いかなる限界をも超えて

Vampires: The Greatest Stories所収の未訳作品のうち、最重要といってよいのはカール=エドワード=ワグナーの"Beyond Any Measure"だろう。1983年度の世界幻想文学大賞であるにもかかわらず、未だに邦訳がない。題名は『ロッキーホラーショー』の歌詞…

いなくなったママ

マーティン=グリーンバーグの編集した吸血鬼アンソロジーといえばVampires: The Greatest Storiesがある。タニス=リーの「血のごとく赤く」やフィリップ=K=ディックの「クッキーおばさん」など、この本に収録されている作品は邦訳済のものが多いのだが…

ネリー=フォスター

Not Long for This Worldというダーレスの短編集は彼自身があまり高く評価していない*1が、捨てるには惜しい味わいのある話も多い。ウィアードテイルズの1933年6月号を初出とする"Nellie Foster"もそのひとつだ。 ネリー=フォスターという少女が死んで…

帰ってきたセーラ=パーセル

ダーレスに"The Return of Sarah Purcell"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1936年7月号で、その後Not Long for This Worldに収録された。 セーラとエマのパーセル姉妹はずっと二人きりで暮らしていたが、姉のセーラが先に亡くなった。残さ…

赤土

The Children of Cthulhuからもう一編、マイケル=リーヴスの"Red Clay"を紹介させていただく。 その墓は、町から遠く離れた山の中にあった。墓とはいうものの、墓石も十字架もない。長さ6フィート、幅2フィートの地面が剥き出しになっているばかりだ。悪…

森の小屋

The Children of Cthulhuというアンソロジーがある。2002年に刊行され、編者はベンジャミン=アダムズとジョン=ペラン。私の知る限り、この本に収録されている作品で邦訳があるのはチャイナ=ミエヴィルの「細部に宿るもの」だけだが、未訳作品の中から…

塗装された鏡

昨日に続いてドナルド=ワンドレイの短編である。"The Painted Mirror"という題名で、初出はエスクァイア誌の1937年5月号。現在はエスクァイアの公式サイトで無償公開されている。 classic.esquire.com 当時の誌面が再現されている。いきなり女性の脚が…