新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ネリー=フォスター

 Not Long for This Worldというダーレスの短編集は彼自身があまり高く評価していない*1が、捨てるには惜しい味わいのある話も多い。ウィアードテイルズの1933年6月号を初出とする"Nellie Foster"もそのひとつだ。
 ネリー=フォスターという少女が死んで吸血鬼になり、子供たちを襲いはじめた。「今度は私の姪がやられたよ」とクラフト夫人がパーキンス夫人にいった。「暗くなってから彼女と出くわして、血を吸われたんだ。命は取り留めたけど、息も絶え絶えさ」
「ネリーはあんなにいい娘だったのにねえ」と嘆くパーキンス夫人。吸血鬼になるかどうかは生前の人格とは関係がないようだ。
「このままでは命を取られる子が出るかも」とクラフト夫人はいった。「何とかしないとね」
「男どもに相談するかい?」
「誰も信じやしないさ」とクラフト夫人はパーキンス夫人の提案を退けた。「私たちだけでやるしかないけど、身を護るものが必要だ。あんたの息子に枢機卿様がくださった十字架を貸してくれないかい」
 パーキンス夫人から十字架を借りたクラフト夫人は、ネリーの埋葬されている墓地へと出かけていく。翌日、蹌踉と帰ってきた彼女は、墓地で目撃したものをパーキンス夫人に語った。ネリーは霞のようになって墓から抜け出し、その後で実体化した。そして夜のうちにウォルターズ家の子供が血を吸われたのだ。
「私は何もできなかった。あの子が犠牲になったのは私のせいだ」とクラフト夫人はいった。「今度こそネリーを止める」
 クラフト夫人は再び出かけていった。彼女を見送ったパーキンス夫人は、もしも自分の幼い娘が襲われたらどうしようと思うのだった。
 翌朝、不安な気持ちでクラフト夫人の帰りを待つパーキンス夫人のところへ近所のシュルツ氏がやってきた。「聞きましたかい?」とシュルツ氏はパーキンス夫人に話しかける。「昨夜、狼藉者がネリー=フォスターの墓を暴いたんでさ。棺を開けて、ネリーの胸に杭を打ちこんだんですぜ! 至るところ血の海になってましたな。こんな不思議なものは見たことがないとお医者様も首をひねってるんで」
 そこへクラフト夫人が現れる。彼女の手が赤土で汚れているのを見たパーキンス夫人は、そのことにシュルツ氏が気づかないでほしいと願った。しかしシュルツ氏はクラフト夫人の手に眼をとめてしまう。
「おや、赤土ですな?」と彼はいった。「みんながネリーの棺からどけたみたいな赤土だ」
「ちょっと庭をいじっていたものですから」とクラフト夫人が答えるのを聞きながら、パーキンス夫人は思った。シュルツさんが彼女の庭を見ませんように。そこには黒土しかないということを知らずにいますように……。
 シュルツ氏は詮索することもなく引き上げていった。彼がいなくなると、クラフト夫人は首から十字架を外してパーキンス夫人に返す。
「これはもう必要ないと思うよ」と彼女はいった。
 単純な話なのだが、孤立無援の女性たちが知恵と勇気を振り絞って吸血鬼に立ち向かう姿がうまく描写されている。後にマーティン=グリーンバーグらが編集したGirls' Night Outに再録された。グリーンバーグはこの作品をVampire Slayersにも収録しているが、よほど気に入っていたのだろうか。

Vampire Slayers

Vampire Slayers

 ラヴクラフトも1931年8月3日付のダーレス宛書簡で"Nellie Foster"を「すばらしい」と褒め、「君の怪奇文学と郷土文学の橋渡しをするものだと思います」と感想を述べている。クラフト夫人やパーキンス夫人のモデルになった人物がダーレスの地元にいたのかもしれない。