新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ランドリー・譫妄の摘要

 〈ランドリー〉シリーズの8巻はThe Delirium Briefだ。「法律とはソーセージのようなもので、作る過程は見ないほうがいい」というビスマルクの言葉が巻頭に掲げてあり、読む前から不安な気分にさせてくれる。もっとも、ビスマルクが実際にこの発言をしたことはないらしい。*1
 〈ランドリー〉は異次元の魔神に対抗するために英国政府が設立した秘密機関、主人公のボブ=ハワードはそこに勤める諜報員――だったのだが、この巻で転換点を迎えることになる。しばらく出番がなかったボブだが、主役に復帰した彼が大阪からロンドンに帰ってきたところから物語は始まる。
 黄衣の王が降臨しそうになったり、異世界からエルフが攻めてきたりと、ろくでもない事態が続いている大英帝国だが、さらに恐るべき陰謀が進行中だった。レイモンド=シラーが保守党政権に取り入り、ランドリーを解散させようとしているのだ。シラーはThe Apocalypse Codex*2で初登場した米国のテレビ伝道師で、キリスト教原理主義に擬装して旧支配者を崇拝する巨大教会(メガチャーチ)を率いている。邪神招喚の企てをボブたちに阻止され、異世界に置き去りにされてしまったのだが、いつの間にか復活を遂げていた。シラーの教団の主要メンバーは邪神の分身たる妖蛆を体に寄生させているのだが、教主である彼自身も性器が触手と化しており、他人と交接することによって宿主を増やせるという大変えげつない能力がある。詳細は割愛させていただくが、英国政府の閣僚は半数が寄生されることになるのだった。
 ランドリーが解散した後、その業務はシラーの教団のフロント企業に外注される予定だった。退魔機関を旧支配者の信徒に乗っ取られる寸前になって、上級監査官はついに政府転覆を決意する。民営化推進派は死すべしというストロスの熱い思いが伝わってくるが、未曾有の強敵に立ち向かうには禁じ手に頼らざるを得ない。The Annihilation Score*3で大量発生した超能力者の一人にファビアン=エブリマンなる男がおり、危険人物としてロンドン塔に収監されていた彼とランドリーは取引することになる。同時にアイリス=カーペンターが釈放された。アイリスはThe Fuller Memorandum*4に登場したランドリーの幹部で、ボブにとっては理想の上司だったが、実はナイアーラトテップを崇拝する暗黒教団の指導者だ。正体を暴かれた後はずっと収容所にいたのだが、人類の命運を無貌の神に委ねることが最善の延命策であるという信念の持ち主で、ランドリーはとうとう彼女に同意するところまで追い詰められたわけだ。ここまで書けばおわかりだろうが、ファビアンこそはナイアーラトテップの化身に他ならなかった。
 シラーの計画は頓挫し、彼はマリの手で始末された。首相も死亡し、暗黒のファラオを首班とする新政権が発足する。かくして大英帝国ナイアーラトテップの化身に統治されることになったのだった。そうなるくらいなら米国の〈機密室〉にまず支援を要請したほうがましだったのではないかと思ったのだが、上級監査官によると〈機密室〉は「シラーが解き放とうとしたものより遙かに凶悪な存在」の軍門に降っているらしい。そいつが何物なのかは次の巻で明らかになる。

The Delirium Brief: A Laundry Files Novel

The Delirium Brief: A Laundry Files Novel

  • 作者:Stross, Charles
  • 発売日: 2017/07/11
  • メディア: ハードカバー