新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ランドリー・迷宮の索引

 〈ランドリー〉シリーズの9巻はThe Labyrinth Indexだ。全巻の出来事によって一変した世界を舞台に、ランドリーの新たな戦いが描かれる。
 〈ランドリー〉は異次元の魔神に対抗するために英国政府が設立した秘密機関――だったのも今は昔、現在はナイアーラトテップのために働いている。大英帝国の首相に就任した暗黒のファラオはEUから勝手に脱退するわ*1死刑制度を復活させるわ、やりたい放題だった。一方、米国政府を掌握した〈機密室〉は"Make America great again"と唱えながらクトゥルーを復活させようとしていた。自分のことを棚に上げて「さすがにクトゥルーはやばいっしょ」などと言い出す暗黒のファラオ。かくしてランドリーの面々は〈機密室〉の陰謀を阻止するべく米国に乗りこんでいくのだった。なお、この巻はボブではなくマリが主役だ。
 〈機密室〉の魔術により、米国民は大統領の存在を忘れてしまっていた。社会的に抹消された米国大統領は、まだ自分のことを覚えている忠実なシークレットサービスとともに逃避行を続けている。大統領を救出し、クトゥルーの復活を未然に阻止することがランドリーに与えられた任務だった。
 米国に到着したマリたちの前に、銀色の全身タイツを着た連中が立ちはだかる。平昌五輪で注目を浴びたモルゲッソヨ像を彷彿とさせる姿だが、その正体は吸血鬼だった。*2冗談みたいな格好だと思いきや、洗脳によって二重スパイを作る凶悪な奴らで、ランドリーは地獄のモルゲッソヨ軍団と仁義なき戦いを繰り広げる羽目になるのだった。
 ワシントンDCの地下では大いなるクトゥルーが降臨していた。といっても〈機密室〉が適当に捕まえてきた人間を憑代として受肉したクトゥルーはまだ幼体の段階であり、力を発揮することはできない。なおクトゥルーは女性代名詞で呼ばれているのだが、憑代は男性なのでクトゥルー本来の性別が女ということなのだろう。まさかのクトゥルー幼女説である。ヒューゴー賞作家がこの珍設定を採用するのは実はストロスが初めてではなく、ニール=ゲイマンという前例がある。*3
 ランドリーに救出された大統領は国民に向けて演説を行い、一部の米国人が彼のことを思い出した。かくして米国は大統領派と反大統領派に分裂し、内乱の時代を迎えることになる。最悪の事態はひとまず回避されたものの、世界は依然として旧支配者に支配され続けていた。果たして人類が解放される日は来るのか、上級監査官には何か腹案があるようだが、所詮は暗黒のファラオの掌上で踊らされているだけなのではないかという疑念を払拭できない。ただしクトゥルーナイアーラトテップですら無敵ではなく、より強大な敵に追われてきたのだそうだ。その敵は「冷たきものども」と呼ばれる謎の存在だが、旧神説が形を変えて復活したといってもよいだろう。
 これで〈ランドリー〉シリーズの既刊をすべて紹介し終えたが、10巻目に当たるDead Lies Dreamingは今年の10月に刊行される予定だ。ストロスによると新刊は〈ランドリー〉シリーズの設定に基づいてはいるものの、ボブたちの物語が終わった後の世界を舞台にしたスピンオフだという。*4

*1:国民投票は行われなかったことになっている。

*2:全身タイツは直射日光を防ぐために着用している。

*3:我はクトゥルー - 新・凡々ブログ

*4:Infomercial Interlude - Charlie's Diary