新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

奇矯で不器用な悪魔たち

ヒポカンパス=プレスから刊行されたダーレス・スミス往復書簡集が届いた。 www.hippocampuspress.com 「二人の職業作家の人生を内幕まで覗ける一冊」と解説にあるとおり、ラヴクラフトとの文通とはまた違ったやりとりを知ることができる。たとえばクラーク…

新しきアダム

スタンリー=G=ワインボウムのThe New Adamに『ネクロノミコン』が出てくるそうだ。プロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアで無償公開されているので読んでみた。 gutenberg.net.au 1939年に発表された長編で、今のところ邦訳はない。どんな話…

アルティマーの護符

ダーレスに"Altimer's Amulet"という短編がある。ウィアードテイルズの1941年5月号を初出とし、同年にアーカムハウスから刊行されたSomeone in the Darkに収録された。この本は読んだことがあるが、ただし私が持っているのは1978年にジョーヴから出…

ブロックのラヴクラフト邸訪問記

ラヴクラフトがロバート=ブロックに宛てて書いた1936年8月12日付の手紙から。 The Planeteerの子たちから『ネクロノミコン』の翻訳を頼まれたのですが、いまは余裕がありません。コノヴァー(とても熱心で野心的な若者みたいですね)のために書かれ…

死者からの花束

ラヴクラフトがロバート=ブロックに宛てて書いた1933年9月15日の書簡より。 "Lilies"を非常に興味深く拝読しました。この手の作品としては非常に優れたものだと本気で思います。こういう穏健な幽霊譚はとりわけダーレスの好みなんですよ。もちろん使…

「無貌の神」余話

1935年7月中旬頃にラヴクラフトが書いたロバート=ブロック宛の手紙より。 シュトゥガッツェ博士という悪党のことは初耳ですが、彼と魔神ナイアーラトテップの関わりについて話を聞いてみたいです。この不吉な輩が登場する作品を読めれば幸いです――君な…

対オカルト機関ディオゲネス=クラブ

クトゥルー神話世界において英国の対オカルト組織といえばランドリーが有名だが、他にもディオゲネス=クラブがある。これはキム=ニューマンが創造した秘密機関で、コナン=ドイルの「ギリシャ語通訳」が元ネタだ。ディオゲネス=クラブにまつわる話の中か…

幽霊湖

ラヴクラフトはアルジャーノン=ブラックウッドを最高の怪奇作家と見なしていたが、友人たちとの文通で話題になっていたのはむしろアーサー=マッケンのほうだった。ダーレス・スミス・ハワード・バーロウ宛の書簡集を調べてみたところ、ただ一人の例外を除…

オカルト探偵ベン=ザキアスの物語

昨日に続いてリチャード=A=ルポフの話をする。彼は1935年生まれなので、ブライアン=ラムレイやリチャード=L=ティアニーよりも年上だ。名を知られた存命中の神話作家としては最年長かもしれない。 "The Adventure of the Voorish Sign"はホームズ…

ヴーアの印の冒険

ラヴクラフトはアルジャーノン=ブラックウッドを最高の怪奇作家と見なしていたが、クトゥルー神話大系への寄与という点ではアーサー=マッケンも重要だろう。マッケンに由来する用語を今日の神話作品で見かけると私はなんとなく嬉しくなる。 そのような作品…

傾いだ影

The Fantasy Fanの最終号となった1935年2月号にはダーレスの"The Slanting Shadow"が掲載されている。ウィスコンシンを舞台にした短編だ。 ユライア=クロールという老人が1年ほど前に失踪した。彼の幽霊が出るという訴えを受け、心霊研究協会のアブナ…

バーケットの12番目の死体

The Fantasy Fanの1933年12月号にダーレスの"Birkett's Twelfth Corpse"が掲載されている。プロジェクト=グーテンベルクで公開されているが、邦訳がないので粗筋を紹介させていただこう。 www.gutenberg.org フレッド=バーケットとハンク=ブラムは…

謎の小箱の話

引き続きThe Fantasy Fanの話だ。「オーガスト=ダーレスの怪奇傑作十選」が掲載された1934年6月号は「彼方より」と「ハイパーボリアの女神」の初出誌でもあった。さらに「文学における超自然の恐怖」が連載中と、なかなか充実した内容だ。 この号には…

食屍鬼の哄笑

昨日の記事で紹介したように、アイオワ大学の図書館でThe Fantasy Fanが無償公開されている。1934年12月号に掲載されているロバート=ブロックの"The Laughter of a Ghoul"を読んでみた。余談だが、この号はラヴクラフトとドゥエイン=ライメルが合作…

クトゥルー神話の三聖が選ぶ怪奇傑作十編

The Fantasy Fanの1934年10月号に「ラヴクラフトの怪奇傑作十選」が載っているそうだ。H.P. Lovecraft's Favorite Weird Talesからの孫引きになるが、その顔ぶれを見てみよう。 ブラックウッド「柳」 マッケン「白い粉薬のはなし」 マッケン「白魔」 …

野ぶどう

ラヴクラフトがダーレスに送った1934年7月16日付の手紙より。 ウィアードテイルズの7月号を読んだのですが、どこをとっても凡庸な内容で、過去最低の部類に入ると思います――それでも例外はありますが。君のブドウの話は見所がありますし、クラーカシ…

灰の地

昨日の記事でママタス&プラットの"The Dude Who Collected Lovecraft"を紹介したが、ティム=プラット単独でのクトゥルー神話小説としては"Cinderlands"がある。2010年にThe Drabblecastで発表された短編で、現在も無料で視聴することが可能だ。 www.dr…

ラヴクラフト蒐集家

『ラヴクラフトの怪物たち』の下巻にはニック=ママタスの「語り得ぬものについて語るとき我々の語ること」が収録されている。彼のクトゥルー神話小説が邦訳されるのは、これが初めてだろう。ラヴクラフトの怪物たち 下発売日: 2020/01/17メディア: Kindle版…

大自然の随筆家

ウィリアム=ブラウニング=スペンサーに"The Essayist in the Wilderness"というクトゥルー神話短編がある。2002年に発表された作品で、2003年度の世界幻想文学大賞候補になった。その後New Cthulhu: The Recent Weirdに収録されている。New Cthulh…

暗闇に一直線

昨日に続いてブライアン=マクノートンのクトゥルー神話作品の話である。彼はSatan's Love Childに続いてSatan's MistressとSatan's Seductressを書いた。この2冊は続き物で、いずれも後に改作されている。Satan's Mistressを書き直したものは題名をDownwar…

双児宮、昇る

ブライアン=マクノートンにGemini Risingというクトゥルー神話長編がある。Satan's Love Childの改作だが、元になったほうの作品を書いたときのことをマクノートンはニュースグループで語っている。 groups.google.com 当時マクノートンは糊口をしのぐため…

『ラヴクラフトカントリー』雑感

マット=ラフの『ラヴクラフトカントリー』を読了した。Lovecraft Country: A Novel (English Edition)作者:Ruff, Matt発売日: 2016/02/16メディア: Kindle版 テレビドラマ化されたことだし、近日中に原作の邦訳が出ることも大いに期待できると思うので、詳…

デュリエ家の悲運

ラヴクラフトがダーレスに宛てて書いた1936年10月24日付の手紙から。 ウィアードテイルズの11月号は読む機会がまだないのですが、10月号はしばらく前に読了しました。エシュバックの作品は絶望的なまでに陳腐ですが、ブロックとカットナーのはと…

赤き朋友の剣

ロバート=E=ハワードに"Swords of the Red Brotherhood"という中編がある。舞台は17世紀の北米大陸、海賊ヴァルミアが主役の物語だ。 ヴァルミアは北米大陸でインディアンに追いかけられている最中だった。彼に族長を殺されたインディアンは絶対に復讐…

ドルーム=アヴィスタの戯れ

ドルーム=アヴィスタという神様がいる。初出はヘンリー=カットナーの"The Jest of Droom-Avista"――というか、クリス=ハローチャ=アーンストの神話作品目録によると他の作品でドルーム=アヴィスタが言及されたことはないそうだ。 wakeupcthulhu.ari-jigo…

「モウリョウ」余話

雨宮伊都さんによると、水木しげるの「モウリョウ」はダーレスとマーク=スコラーの合作が元ネタだそうだ。今日という日にちなんだ豆知識。ゲゲゲの鬼太郎シリーズの一編、「モウリョウ」はオーガスト・ダーレスとマーク・スコラーの合作した「帰ってきたア…

彼らは甦るべし

昨日に続いてダーレスとマーク=スコラーの合作を紹介したい。"They Shall Rise"という中編で、ラヴクラフトはこの作品のために推薦状を書いたことがある。*1ファーンズワース=ライトは他人に影響されやすいようだから、作家たちが互いの作品を推薦し合えば…

蛇の眼

クリス=ハローチャ=アーンストの神話作品目録*1を眺めていたら、ヘンリー=カットナーの"The Toad"という小説が記載されていた。知らない作品だと思いきや、実は"The Frog"のことらしい。それなら「蛙」という邦題で青心社文庫の『クトゥルー』に収録され…

人蛇の怪

ウィアードテイルズの1925年9月号にはフランク=ベルナップ=ロングの"The Were-Snake"が掲載されている。ロングの初期作品のひとつで、後述するようにクトゥルー神話との接点が少しだけあるのだが、私の知る限り邦訳はまだない。 主人公はアジアの某所…

木乃伊の眼

ロバート=ブロックの「セベクの秘密」には"The Eyes of the Mummy"という続編がある。初出はウィアードテイルズの1938年4月号で、その後ブロックの作品集やアンソロジーにちょくちょく収録されているのだが、現在では意外と入手しづらい。ケイオシアム…