新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

黒い風が吹く

ロバート=E=ハワードに"Black Wind Blowing"という短編がある。 主人公はエメット=グラントンという青年。夜中、ジョン=ブルックマンに呼び出されて自動車を走らせる彼の前に立ちはだかったのは、ブルックマンの使用人のジョシュアだった。殺気立ってお…

もふもふの獣を近寄らせるな!

アルジャーノン=ブラックウッドが1949年に大英帝国勲章を授与されたときの逸話が、マイク=アシュリーによる評伝に書いてある。3月1日にバッキンガム宮殿で執り行われた叙勲式にブラックウッドは燕尾服を着て出席したが、その服は貸衣装だった。料金…

この斧を以て我は治む!

ロバート=E=ハワードに"By This Axe I Rule!"という短編がある。ヴァルーシアの大王カルを主役とする作品だ。 カルを亡き者にして玉座を奪おうとする陰謀がヴァルーシアでは進行中だった。首謀者は詩人リドンド・伯爵ヴォルマナ・軍団長グロメル・男爵カ…

ローマの遺跡

アルジャーノン=ブラックウッドに"Roman Remains"という短編がある。1947年に執筆され、ブラックウッドの生前に出版された最後の作品になった。初出はウィアードテイルズの1948年3月号だ。 vaultofevil.proboards.com ウィアードテイルズに掲載さ…

死者との誓い

順番からいえば今日はロバート=E=ハワードの日なのだが、代わりにシーベリー=クインの"Pledged to the Dead"を紹介したい。ウィアードテイルズの1937年10月号に掲載された短編で、現在はプロジェクト=グーテンベルクで無償公開されている。私の知…

第二世代

アルジャーノン=ブラックウッドに"The Second Generation"という短編がある。初出は1912年7月6日付のウェストミンスター=ガゼットで、その後Ten Minute Storiesに収録された。The Best Psychic Storiesに再録されたものがプロジェクト=グーテンベル…

地上の男

ロバート=E=ハワードに"The Man on the Ground"という短編がある。「老ガーフィールドの心臓」や「鳩は地獄から来る」と同じく南部の怪奇譚に分類される作品だ。邦訳はないが、原文はプロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアで公開されている。 gut…

事前従犯人

アルジャーノン=ブラックウッドに"Accessory Before the Fact"という短編があり、プロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアなどで無償公開されている。 gutenberg.net.au マーティンは休日の散策を楽しんでいたが、どういうわけか荒野で迷ってしまった…

ダーモッドの破滅

このところアルジャーノン=ブラックウッドとロバート=E=ハワードの作品を交互に紹介しているが、別に意図があるわけではない。そもそもハワードはブラックウッドを読んだことがないと1930年10月頃の手紙でラヴクラフトに語っており、少なくとも直…

ここから電話するかも

アルジャーノン=ブラックウッドに"You May Telephone from Here"という短編がある。元々は新聞小説で、1909年2月27日付のウェストミンスター=ガゼットが初出だ。その後Ten Minute StoriesとStrange Storiesに収録されたが、まだ邦訳はない。 午後1…

滅ぶべし

ロバート=E=ハワードに"Delenda Est"という短編がある。西暦455年にあったヴァンダル族のローマ略奪、その直前の出来事を描いた作品だ。題名は大カトーの言葉として有名な"Carthago delenda est"(カルタゴ滅ぶべし)をもじったものだが、ここではロー…

S.O.S.

アルジャーノン=ブラックウッドに"S.O.S."という短編がある。初出はThe Story-tellerの1918年3月号。余談だが、この月刊誌にはチェスタートンの「ブラウン神父」も何編か掲載されたことがある。 en.wikisource.org クリスマスの季節、語り手とドロシー…

せわしない水

ロバート=E=ハワードに"Restless Waters"という短編がある。 en.wikipedia.org ウィキペディアではフェアリング*1の物語に分類されているが、これは正しくない。また初出がSpaceway Science Fictionの1969年9-10月号だというのも間違いで、正しく…

クトゥルーの出身地

1930年にウィスコンシン大学マディソン校を卒業したダーレスはミネアポリスの出版社に就職した。ミネアポリスの隣にはセントポールがあり、後にアーカムハウスの共同経営者となるドナルド=ワンドレイが住んでいた。彼は1930年11月23日付のラヴ…

死の接触

ロバート=E=ハワードに"The Touch of Death"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1930年2月号で、そのときは"The Fearsome Touch of Death"という題名だった。だがハワード本人が作成した作品目録では"The Touch of Death"となっているため…

モホーン=ロスからの手紙

クラーク=アシュトン=スミスの"The Letter from Mohaun Los"を読んだラヴクラフトは1931年5月12日付のスミス宛書簡で「きわめて鮮烈で印象的」「夢中になって読みました」と感想を述べている。この作品をスミス自身は1931年8月18日付のダー…

誰にも真似できぬ作家

ラヴクラフトはエイブラハム=メリットとダンセイニ卿の本をC.L.ムーアに贈ったことがあり、ムーアが1936年1月30日付の手紙でお礼を述べている。 まずは、すばらしい御本をくださったことに尽きせぬ感謝を申し上げます。ダンセイニの本をこんなに…

カソネットの最後の歌

ロバート=E=ハワードに"Casonetto's Last Song"という短編がある。1973年まで日の目を見なかった作品で、現在はThe Horror Stories of Robert E. Howardで読めるものの邦訳はない。The Horror Stories of Robert E. Howard (English Edition)作者:How…

スカーフェイスとラヴクラフト

『暗黒街の顔役』という映画がある。アル=カポネの生き様から着想を得たギャング映画だが、原作者のアーミティッジ=トレイルはフランク=ベルナップ=ロングの知り合いで、ラヴクラフトともわずかながら縁があった。Scarface: The Novel. The Legend. (Eng…

バラモンの知恵

"The Brahmin's Wisdom"という掌編がある。クラーク=アシュトン=スミスの作品としてCrypt of Cthulhuの27号(1984年万聖節号)に掲載されたが、真の作者が誰だったかは後述する。 www.eldritchdark.com 題名から察しがつくように、インドとおぼしき…

ペルトンヴィルの恐怖

昨日に続いてリチャード=A=ルポフの作品を紹介したい。2004年に発表された"The Peltonville Horror"という短編だ。クトゥルー神話色が濃厚な話で、現在ではThe Doom That Came to Dunwichに再録されている。The Doom That Came to Dunwich: Weird mys…

幻夢郷ものがたり

リチャード=A=ルポフに"Villaggio Sogno"という短編がある。2004年にマイク=アシュリーが編んだThe Mammoth Book of Sorceror's Talesが初出の作品で、題名はイタリア語で「夢の村」を意味する。 主役はマルゲリータと、その親友のフランチェスカ。…

ラヴクラフトのブラックウッド論

昨日の記事*1で申し上げたように、アルジャーノン=ブラックウッドのStrange Storiesがラヴクラフトとダーレスの文通で話題になったことがある。このとき、1930年1月下旬から2月上旬の間にラヴクラフトが書いた手紙では好きな作品として「エジプトの奥…

海神が来る夜

アルジャーノン=ブラックウッドにStrange Storiesという短編集がある。この本が1929年にハイネマンから刊行されたとき、興味を覚えたラヴクラフトは1929年12月15日付のダーレス宛書簡で「『柳』と『ウェンディゴ』が収録されているといいんです…

ラヴクラフトが行きたがった外国

ラヴクラフトが行ったことがある唯一の外国はカナダだ。だいぶ気に入ったらしく、三度もケベックを訪れている。だが寒いのが苦手な彼としてはむしろ南の国に関心があったのではないか――と思っていたら、1930年1月14日付のジェイムズ=F=モートン宛…

デュマとダンセイニと

ラヴクラフトがロマンス小説を受け付けようとしないことに対し、C.L.ムーアは1935年12月7日付の手紙で意見を述べている。 幻想文学に対する先生の愛情や理解と対照的なロマンスへの嫌悪について申し上げたいことがございます。デュマが書いたもの…

海の呪い

ロバート=E=ハワードの初期の作品に"Sea Curse"という短編がある。1926年の初秋にウィアードテイルズの編集部に受理され、1928年5月号に掲載された。現在では公有に帰しており、ウィキソースなどで原文が無償公開されている。 en.wikisource.org…