新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2012-01-01から1年間の記事一覧

ヨシ対キング

世の中には暇な人がいるもので、S.T.ヨシがスティーヴン=キングを評した言葉がまとめてあったりする。もっとも、そんなものを読みたがる私は輪をかけた暇人ということになるかもしれない。さて、ヨシがどんなことを書いているのかというと―― キングが成…

燃えと萌え

ロバート=E=ハワードのコナン・サーガに「黒い異邦人」という作品がある。文明社会から遠く離れた辺境で暮らすヴァレンソ伯爵と姪のベレサ。伝説の財宝を狙う海賊が来襲し、さらにコナンが現れて――という話だ。ハワードの没後も長らく日の目を見ず、スプ…

励ましたり、励まされたり

ウィアードテイルズの1932年5月号にはロバート=E=ハワードの「墓からの悪魔」が載っているが、この作品に対するハワード自身の評価は必ずしも高くなかった。1932年4月に書いたラヴクラフト宛の手紙でハワードは次のように述べている。 僕の故郷…

ラヴクラフトと文通した少女

ハリー=K=ブロブストが"Autumn in Providence"で次のように回想している。 「ラヴクラフトさんは本物の紳士ね」と僕の妻がいったことが忘れられません。本当にその通り、ラヴクラフトは本物の紳士でしたよ。 ミュリエル=エディやヘイゼル=ヒールドもラ…

ダーレスの伝記

ドロシー=M=グローブ=リタースキーという人が書いたダーレスの伝記を前に紹介したことがあるが(参照)、この本はダグラス=A=アンダーソンのブログでも取り上げられている。 Lesser-Known Writers: Dorothy M. Grobe Litersky リタースキーが2002…

ウィアードテイルズの3代目編集長

ウィアードテイルズの初代編集長はエドウィン=バード、2代目はファーンズワース=ライトである。ライトはパーキンソン病を患っており、闘病しながら編集長を務めていたが、病状が悪化したため1940年に引退を余儀なくされた。ライトの後を継いだのはド…

博物館助手ラヴクラフト

S.T.ヨシのラヴクラフト伝から。 1925年2月、ジェイムズ=F=モートンがパターソン博物館の館長に就任し、終世その職にあった。モートンが自分の助手として雇ってくれる可能性をラヴクラフトは7月の半ば頃には語りはじめ、彼が1926年4月にニ…

黒き永劫

"Black Eons"という断章をロバート=E=ハワードが遺している。さほど長い文章ではないが、クトゥルー神話ファンにとって興味深い情報を含んでいる。 舞台は現代のエジプト、アリソンとブリルの二人が遺跡の発掘調査をしている。新しく発掘された墳墓を前に…

ヴァルハラの進撃者たち

ロバート=E=ハワードに"Marchers of Valhalla"という短編がある。読もうと思ったら、The Black Stranger and Other American Tales に収録されているものが入手しやすいだろう。余談だが、この作品集はマイク=ミニョーラの手になる表紙絵がかっこいい。 …

ブランデージ異聞

スプレイグ=ディ=キャンプの書いたラヴクラフト伝には次のような記述がある。 1933年から1938年にかけて、マーガレット=ブランデージ夫人はウィアードテイルズの表紙絵をほぼ独占していた。妖魔に脅かされる裸のヒロインの絵を何十枚も描く際に、…

ウィアードテイルズ表紙のパクリ疑惑

マーガレット=ブランデージといえば、愛らしくも煽情的なパステル画でウィアードテイルズの表紙を飾った画家だが、彼女がフランク=ユトパテルの絵をパクッたという話がある。ロバート=バーロウに宛てて書いた1933年12月17日付の手紙でラヴクラフ…

決して眠らぬ魔神の館の扉

パルヴァーは"The Door to the World"の続編を書いている。その題名を"The Door in the House of the Never Slumbering Demon"といって、リン=カーターの創造したオカルト探偵アントン=ザルナックが登場する。中華街に住んでいる高名な霊能力者をオデアが…

世界への扉

"The Door to the World"というクトゥルー神話小説がある。ロバート=E=ハワードの遺した断章をジョゼフ=S=パルヴァーが補って完成させたもので、狂詩人ジャスティン=ジョフリの作品からの引用が冒頭に掲げてある。その部分を訳出してみよう。 奇妙な…

マングース

エリザベス=ベアとセーラ=モネットが"Mongoose"というクトゥルー神話短編を2009年に発表している。ベアは、ヒューゴー賞受賞作の「ショゴス開花」がSFマガジンの2010年5月号に掲載されたことが記憶に新しい。モネットのほうはまだ邦訳がなく、…

巨人の復活

ブライアン=マクノートン(1935〜2004)に"The Return of the Colossus"というクトゥルー神話作品がある。1996年に発表された短編で、C.A.スミスの「イルーニュの巨人」の続編という位置づけだ。 魔術師ナテールが人間の屍から巨人を作り上…

ライバーが語るダーレス

Is というファンジンの第4号(1971年10月号)を買った。この号はダーレスの追悼特集号で、レイ=ブラッドベリやロバート=ブロックなど豪華な顔ぶれが名前を連ねている。先日の記事で紹介したコリン=ウィルソンのエッセイ(参照)も、このファンジン…

ラヴクラフトの霊界通信

ラヴクラフトは唯物論者であり、合理主義者であったが、彼を超常現象や心霊現象と結びつけようとする人もいる。以下に紹介するのはミュリエル=エディによる回想で、ジャック=モフィットという人が1956年に書いた記事で取り上げられたものだそうだ。 ht…

鏡の中にある如く

『デルタグリーン』シリーズの新刊Through a Glass, Darkly が発売されたので買ってみた。The Rules of Engagement の続編に当たるが、作者はジョン=タインズからデニス=デトワイラーに交代した。マジェスティック12の下部組織であるアウトルック=グル…

「ウルタールの猫」余話

ラヴクラフトの「ウルタールの猫」にはメネスという名の少年が登場するが、この名前はダンセイニ卿の戯曲「アルギメネス王」に由来するものではないかとS.T.ヨシが『H.P.ラヴクラフト大事典』で述べている。ラヴクラフトがダンセイニに傾倒していた…

名前を変えた人、変えなかった人

ブライアン=ラムレイはハグナ=S=グレイという筆名を使おうとしたことがある。止めておけとダーレスにいわれたので、ラムレイは本名で通すことにした。 ラムジー=キャンベルの本名はジョン=ラムジー=キャンベルである。そのままアスタウンディング誌の…

黒い熊が噛む

ロバート=E=ハワードに"The Black Bear Bites"という短編がある。中国の漢口(現在の武漢市)が舞台、ジョン=オドンネルという米国人が主人公の作品だ。「暗黒の民」の主役もジョン=オドンネルという名前だが、同一人物なのかは不明である。 ヨタイ=ユ…

『ネクロノミコン』とダンセイニ

未谷おとさん(id:pegana)が曰く―― window.twttr = (function(d, s, id) { var js, fjs = d.getElementsByTagName(s)[0], t = window.twttr || {}; if (d.getElementById(id)) return t; js = d.createElement(s); js.id = id; js.src = "https://platform.…

反復する災厄

S.T.ヨシといえば世界一のラヴクラフト研究家であり、凡俗なクトゥルー神話作品に対する手厳しい態度で知られる御仁だが、実は彼自身が"The Recurring Doom"という神話作品を1975年に書いている。Acolytes of Cthulhu に収録されているのを読んだこ…

「鬼神の石塚」余話

ロバート=E=ハワードに「鬼神の石塚」という短編がある。ブライアン=ボルーの率いるアイルランド軍が1014年にバイキングを撃破したクロンターフの戦い、その古戦場に封印されたオーディンが邪霊化して900年の眠りから目覚めるが、聖ブレンダンの…

暗黒の破壊神

ダニエル=ハームズのThe Cthulhu Mythos Encyclopedia には這い寄る混沌ナイアーラトテップの化身として「暗黒の破壊者」が載っている。『エンサイクロペディア・クトゥルフ』には載っていなかったから、新顔の化身ということになる。 暗黒の破壊者(Dark D…

声の高い人、低い人

ラヴクラフトの声を録音したものは残っていないが、彼の声はやや甲高かったという証言がある。一方、ダーレスは「類い稀なバスバリトンの美声」だったとピーター=ルーバーが述べている。*1ダーレスの詩を彼自身が朗読するのをオーガスト=ダーレス協会のサ…

一抹の悲劇

コリン=ウィルソンに"A Touch of Tragedy"というエッセイがある。ダーレスが他界した直後に発表されたもので、彼の住むソークシティをウィルソンが1967年に訪問したときのことが書いてある。ウィスコンシン州の小さな町でダーレスは人々から尊敬されな…

蛇神セト

セトといえばエジプト神話の神だが、クトゥルー神話においては旧支配者の化身ということになっている。セトとして顕現する旧支配者はハスターだったりナイアーラトテップだったりイグだったり、作家によって解釈が異なるが、このように錯綜した状況になった…

ゴル=ゴロス余話

バル=サゴスの神々 - 凡々ブログ "The Gods of Bal-Sagoth"に登場する邪神ゴル=ゴロスとクトゥルー神話大系の関わりについて論じる記事をロバート=プライスが書いている。"Gol-Goroth, A Forgotten Old One"という題名で、初出はCrypt of Cthulhu の第3…

バル=サゴスの神々

闇の男 - 凡々ブログ ゴル=ゴロスを紹介するための前振りとして"The Dark Man"の話を始めたら、その前振りがえらく長くなってしまった。そこで独立した記事にしたわけだが、今度こそゴル=ゴロスの話をする。 "The Gods of Bal-Sagoth"は"The Dark Man"の続…