新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

デュリエ家の悲運

 ラヴクラフトがダーレスに宛てて書いた1936年10月24日付の手紙から。

 ウィアードテイルズの11月号は読む機会がまだないのですが、10月号はしばらく前に読了しました。エシュバックの作品は絶望的なまでに陳腐ですが、ブロックとカットナーのはとてもよく書けています。ムーアのは平均程度の出来で、"House of Duryea"は結末がうまいですね。全体的には凡庸ですが、前号よりは幾分ましになっています。

 ここでラヴクラフトに評された作品の題名を以下に挙げておく。邦訳がないものは原題のままとし、プロジェクト=グーテンベルクへのリンクを張った。

  • ロイド=アーサー=エシュバック "Isle of the Undead"*1
  • ロバート=ブロック「冥府の守護神」
  • ヘンリー=カットナー「クラーリッツの秘密」
  • C.L.ムーア「生命の樹
  • アール=ピアース "Doom of the House of Duryea"*2

 1936年10月15日付のカットナー宛書簡によると、ラヴクラフトは「クラーリッツの秘密」を真っ先に読んだそうだ。それはさておき、結末がうまいとラヴクラフトに褒められた"Doom of the House of Duryea"の粗筋を紹介させていただこう。
 アルトゥール=デュリエが20年ぶりに父親と再会するところから物語は始まる。アルトゥールが7歳の時に彼の弟2人が死亡し、その遺体からは血液がすっかり失われていた。父親のアンリ=デュリエ博士は殺人の嫌疑で逮捕され、無罪にはなったものの20年にわたってアルトゥールとの接見を禁止される。アルトゥールには母親がいなかったため、おばのセシリアが養育することになった。
 息子と涙の対面をしたデュリエ博士は20年前の事件を苦しげに振り返り、デュリエ家にまつわる呪いの伝説について語る。そのことはアルトゥールもセシリアからさんざん聞かされていたが、迷信に過ぎないと退けた。
 アルトゥールは父親とメイン州の田舎で一緒に過ごすことにする。2日目の晩、嵐の気配がした。デュリエ博士はボートを係留しなおすために湖へ出かけ、独り残されたアルトゥールは一冊の本を発見した。1580年にフランスのカーンで出版された本で、題名はすでに摩滅して判読不能だったが、表紙に貼られた紙にはINFANTIPHAGIと印刷してあった。
 アルトゥールはその本を読みはじめた。1576年にデュリエ家の先祖が吸血鬼として処刑された事件について記述があり、彼が突如として凶行に及んだ理由が考察されていた。吸血鬼としてデュリエ家に生まれた者は普通の人間と何ら変わるところがないが、媒介となる近親者がそばにいるときだけ、受け継がれた形質が発現するのだ。吸血鬼が覚醒するときは、嘔吐感や悪夢といった心身の変調がその予兆となるということだった。湖から戻ってきたデュリエ博士は息子にロープを渡し、自分を寝台に縛りつけるよう命じる。
「あの本を読んだのだろう。媒介はセシリアであってほしいと思っていたが、おまえだった。さあ急いで。縛るんだ!」
 アルトゥールはやむなく父親の言いつけに従う。翌朝、彼が目を覚ますと日はすでに高く昇っていた。アルトゥールが父親の寝室へ行くと、デュリエ博士は息絶えていた。その遺体はまるで蝋人形のように血の気がなく、自分こそが吸血鬼であったことを悟ったアルトゥールは散弾銃で頭を撃って自殺した。
 親子の遺体は3日後に発見された。アルトゥールが自殺したことは一目瞭然だったが、デュリエ博士の死因は検死官の頭を悩ませた。喉に二つ小さな穴が空いている以外は外傷がないにもかかわらず、全身の血がなくなっていたのだ。やがてタブロイド紙がデュリエ家の呪われた血脈について書き立て、当局は親子の遺体を火葬にしたのだった。
 というわけで、ラヴクラフトが述べたように結末がひねってある。もうひとつ、この作品はルートウィヒ=プリンに言及がある点も注目に値するだろう。したがってクトゥルー神話作品と見なせるのだが、作者がブロックの知人だったことが理由と思われる。ラヴクラフトは1935年6月上旬のブロック宛書簡でピアースのことを「非常に興味深そうな若者」と呼び、彼が手紙をくれるのであれば一向にかまわないと述べている。おそらくブロックがそのことを伝えたのだろうが、ピアースはラヴクラフトに手紙を出し、その返信がアーカムハウスラヴクラフト書簡集に2通収録されている。*3

Acolytes of Cthulhu (English Edition)

Acolytes of Cthulhu (English Edition)

*1:Isle of the Undead by Lloyd Arthur Eshbach - Free Ebook

*2:Doom of the House of Duryea by Earl Peirce - Free Ebook

*3:1936年11月28日付および1937年2月17日付。