新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

マニトウの葬礼

グレアム=マスタートンのBurialは〈マニトウ〉シリーズの3作目として1991年に出版された。前作とは12年の間隔が空いているが、作中でもそれくらいの歳月が経過したことになっている。 主人公のハリー=アースキンは相変わらずニューヨークで占い師を…

逆襲のマニトウ

Revenge of the Manitouはグレアム=マスタートンの〈マニトウ〉シリーズの2作目だ。伝説の大呪術師ミスクアマカスが再び甦ろうとし、占い師のハリー=アースキンが盟友のジョン=シンギングロックとともに立ち向かう。『マニトウ』はニューヨークが舞台だ…

マニトウ外伝・霊魔の壺

昨日の記事で紹介したとおり、グレアム=マスタートンにはThe Djinnという長編がある。『マニトウ』と同じくハリー=アースキンが主人公の外伝作品で、1977年に刊行された。〈マニトウ〉シリーズの1巻は1975年、2巻は1979年に発表されたので、…

『マニトウ』余話

『マニトウ』はグレアム=マスタートンの長編小説だ。1978年にヘラルド映画文庫から邦訳が出たが、現在では入手困難となっている――と書いてみたものの、私も邦訳は読んだことがない。一方、原書は電子書籍で復刊されており、安く買うことができる。 カレ…

イースの夢

ドゥエイン=ライメルの"Dreams of Yith"がCthulhu Filesで公開されている。 www.cthulhufiles.com これも公有に帰しているということなので日本語に翻訳してみた。 www7a.biglobe.ne.jp "Dreams of Yith"の初出はThe Fantasy Fanの1934年6月号で、題名…

ラヴクラフトが戦死した世界で

Spaceshipは1940年代から50年代にかけてロバート=シルヴァーバーグが発行していたファンジンだ。その17号にレッド=ボッグズの"The Man Who Might Have Been"が掲載されている。ボッグズという人のことを私はまったく知らなかったのだが、ヒューゴ…

3月15日に気をつけろ

本日の記事タイトルはシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」から。The Ides of Marchすなわち3月15日はユリウス=カエサルが暗殺された日として有名だ。さて、ラヴクラフトがジェイムズ=F=モートンに宛てて書いた1930年3月15日付の手紙には…

ダンセイニとラヴクラフトとダーレス

ラヴクラフトがロバート=バーロウに宛てて書いた1934年3月14日付の手紙より。 そうですね――ダンセイニが衰えていることは否めません――ユーモアのセンスが彼の弱点になってしまっているのです。初期の作品は最高ですね――『ペガーナの神々』『時と神々…

ダンセイニとカパブランカ、そしてアレヒン

もう11年も前になるが、ダンセイニ卿はキューバの大棋士ホセ=ラウル=カパブランカとチェスの対局で引き分けたことがあるという記事を書いた。 byakhee.hatenablog.com 念のために断っておくが、二人は対等な立場で指したわけではない。カパブランカは数…

ロナルド=ウィームズの奇跡

昨日の記事で紹介した"Chameleon Man"と似たような話――冴えない男が超能力に目覚めるギャグ小説はロバート=ブロックも書いている。題名を"The Miracle of Ronald Weems"といって、初出はImaginative Talesの第5号(1955年5月号)だ。 adventuresfanta…

カメレオン男

「ラヴクラフト・サークル」の作家たちはほとんどがアーカムハウスで単行本デビューしているが、例外的なのがC.L.ムーアとヘンリー=カットナーだ。カットナーの作品集をアーカムハウスから出す計画はあったのだが、いざ契約を結ぶ段になって折り合いが…

星々の音楽

ドゥエイン=ライメルに"Music of the Stars"というクトゥルー神話短編がある。初出はThe Acolyteの1943年春季号だ。私はTales of the Lovecraft Mythosで読んだのだが、現在では公有に帰しているためCthulhu Filesでも公開されている。 www.cthulhufile…

ミステリ好きのラヴクラフト

ラヴクラフトが1934年11月19日に書いたドゥエイン=ライメル宛の手紙より。 最近ダーレスが彼の推理小説の最新作を私にくれたんですよ――"The Man on All Fours"という題名です――1週間で書き上げた三文小説だというのですが、それにしては非常に頭の…

シャーロットの宝石

ドゥエイン=ライメルに"The Jewels of Charlotte"というクトゥルー神話短編がある。ライメルの作品で邦訳されている「アフラーの魔術」「墓を暴く」「山の木」の3編はすべてラヴクラフトとの合作だが、"The Jewels of Charlotte"も彼の手が加わっているか…

「クトゥルー神話小辞典」余話

フランシス=T=レイニーの「クトゥルー神話小辞典」はThe Acolyteの1942年冬季号に掲載された後、1943年にアーカムハウスから刊行されたBeyond the Wall of Sleepに改訂版が収録された。その刊行に先駆けてダーレスはクラーク=アシュトン=スミス…

月世界ハリウッド

クラーク=アシュトン=スミスがロバート=バーロウに宛てて書いた1938年5月10日付の書簡より。Marvel Science Storiesという創刊されたばかりのパルプ雑誌を買って読んだ感想を述べている。 ところで、この雑誌は掲載作のひとつかふたつで「刺激」へ…

壁の中で叩く音

ダーレスに"A Knocking in the Wall"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1951年7月号で、1976年にアーカムハウスから刊行されたDwellers in Darknessに収録された。その後、ピーター=ヘイニングが編集したPoltergeist: Tales of Deadly …

セットラーの壁

ロバート=A=W=ローンズの"The Long Wall"がCthulhu Filesで公開されている。 www.cthulhufiles.com これは1942年にウィルフレッド=オーウェン=モーリー名義で発表された短編なのだが、後にクトゥルー神話の要素を付け足して書き直されたものが"Se…

奇矯で不器用な悪魔たち

ヒポカンパス=プレスから刊行されたダーレス・スミス往復書簡集が届いた。 www.hippocampuspress.com 「二人の職業作家の人生を内幕まで覗ける一冊」と解説にあるとおり、ラヴクラフトとの文通とはまた違ったやりとりを知ることができる。たとえばクラーク…

新しきアダム

スタンリー=G=ワインボウムのThe New Adamに『ネクロノミコン』が出てくるそうだ。プロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアで無償公開されているので読んでみた。 gutenberg.net.au 1939年に発表された長編で、今のところ邦訳はない。どんな話…

アルティマーの護符

ダーレスに"Altimer's Amulet"という短編がある。ウィアードテイルズの1941年5月号を初出とし、同年にアーカムハウスから刊行されたSomeone in the Darkに収録された。この本は読んだことがあるが、ただし私が持っているのは1978年にジョーヴから出…

ブロックのラヴクラフト邸訪問記

ラヴクラフトがロバート=ブロックに宛てて書いた1936年8月12日付の手紙から。 The Planeteerの子たちから『ネクロノミコン』の翻訳を頼まれたのですが、いまは余裕がありません。コノヴァー(とても熱心で野心的な若者みたいですね)のために書かれ…

死者からの花束

ラヴクラフトがロバート=ブロックに宛てて書いた1933年9月15日の書簡より。 "Lilies"を非常に興味深く拝読しました。この手の作品としては非常に優れたものだと本気で思います。こういう穏健な幽霊譚はとりわけダーレスの好みなんですよ。もちろん使…

「無貌の神」余話

1935年7月中旬頃にラヴクラフトが書いたロバート=ブロック宛の手紙より。 シュトゥガッツェ博士という悪党のことは初耳ですが、彼と魔神ナイアーラトテップの関わりについて話を聞いてみたいです。この不吉な輩が登場する作品を読めれば幸いです――君な…

対オカルト機関ディオゲネス=クラブ

クトゥルー神話世界において英国の対オカルト組織といえばランドリーが有名だが、他にもディオゲネス=クラブがある。これはキム=ニューマンが創造した秘密機関で、コナン=ドイルの「ギリシャ語通訳」が元ネタだ。ディオゲネス=クラブにまつわる話の中か…

幽霊湖

ラヴクラフトはアルジャーノン=ブラックウッドを最高の怪奇作家と見なしていたが、友人たちとの文通で話題になっていたのはむしろアーサー=マッケンのほうだった。ダーレス・スミス・ハワード・バーロウ宛の書簡集を調べてみたところ、ただ一人の例外を除…

オカルト探偵ベン=ザキアスの物語

昨日に続いてリチャード=A=ルポフの話をする。彼は1935年生まれなので、ブライアン=ラムレイやリチャード=L=ティアニーよりも年上だ。名を知られた存命中の神話作家としては最年長かもしれない。 "The Adventure of the Voorish Sign"はホームズ…

ヴーアの印の冒険

ラヴクラフトはアルジャーノン=ブラックウッドを最高の怪奇作家と見なしていたが、クトゥルー神話大系への寄与という点ではアーサー=マッケンも重要だろう。マッケンに由来する用語を今日の神話作品で見かけると私はなんとなく嬉しくなる。 そのような作品…

傾いだ影

The Fantasy Fanの最終号となった1935年2月号にはダーレスの"The Slanting Shadow"が掲載されている。ウィスコンシンを舞台にした短編だ。 ユライア=クロールという老人が1年ほど前に失踪した。彼の幽霊が出るという訴えを受け、心霊研究協会のアブナ…

バーケットの12番目の死体

The Fantasy Fanの1933年12月号にダーレスの"Birkett's Twelfth Corpse"が掲載されている。プロジェクト=グーテンベルクで公開されているが、邦訳がないので粗筋を紹介させていただこう。 www.gutenberg.org フレッド=バーケットとハンク=ブラムは…