新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

双児宮、昇る

 ブライアン=マクノートンGemini Risingというクトゥルー神話長編がある。Satan's Love Childの改作だが、元になったほうの作品を書いたときのことをマクノートンニュースグループで語っている。
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 当時マクノートンは糊口をしのぐためにポルノ小説を書いていたが、あるときホラーを書かせてもらえることになった。といってもポルノであることに変わりはなかったのだが、四半世紀近く経ってからエロ要素を削ぎ落として書き直したのがGemini Risingというわけだ。『オーメン』のような話を書いてほしいというのが出版社の注文だったそうだが、実際の内容はむしろ「ダニッチの怪」の再話といったほうがいい。
 マーシャ=クレイトンはニュージャージー州リバーエッジの小さな新聞社に勤める31歳の女性。少女の頃、厳格な両親に反発して家を飛び出し、怪しげな共同体で暮らしたあげくに女の子を出産したのだが、相手の男が誰だったのか記憶がない。今では建築家と結婚して彼との間に2人の子を儲け、合わせて三児の母となっているマーシャだったが、彼女の平穏な生活は急速に破られつつあった。相次いで猟奇殺人があり、町にヒッピーが集まってくる。彼らの狙いはマーシャの長女メロディなのか? 自分には双子の兄弟がいると言い出すメロディ……。
 想像に難くないだろうが、メロディの父親は人間ではなく旧支配者だ。その名前は明示されていないが、おそらくヨグ=ソトースなのだろう。ヒッピーを装っていた連中は実際には旧支配者の信徒だったのだが、彼らがヨグ=ソトースの御名を唱和する場面がある。
 メロディは旧支配者の力を受け継いでいるが、その力と肉体が分離した状態で生まれてきた。「双子の兄弟」というのは実は彼女自身の力のことだったのだ。邪神教団はメロディの肉体と力を合一させ、彼女が神の子として力を自在に行使できるようにしようとしていた。その企ては失敗に終わり、「双子の兄弟」は消滅してしまったが、教団はすぐさま次の計画に取りかかった。メロディを邪神と交わらせ、完璧な神の子を誕生させるという計画だ。マーシャは懸命に娘を守ろうとするが、メロディがすでに入信していたことが判明する。マーシャは精神病院に入れられ、妊娠したメロディが面会しに来る場面で物語は終わる。
 これは絶対に続編があるだろうと思いきや、何と一巻で完結しているそうだ。救いようがない。なお、ルシファーという名前のドーベルマンをマーシャは飼っているのだが、およそ役に立たない駄犬だ。もしかして「ダニッチの怪」でミスカトニック大学図書館の番犬が大活躍だったことを踏まえたパロディなのだろうか。
 他にも、ヒッピーの悪口をいう地元民の爺さんが登場するのだが、この人なら大丈夫そうだと思ったマーシャが頼ろうとすると途端に邪教徒の正体を現す。外見がヒッピーであろうとなかろうと周りは旧支配者の信者だらけ、しまいには娘まで信者だったことが明らかになり、主人公の追い詰められている感じが半端ない。孤立無援のマーシャにとって唯一の味方となる司祭も結局は無力であり、強くて格好いいアーミティッジ博士とは対照的だ。その辺も「ダニッチの怪」のパロディめいている。
 余談だが、マクノートンの書いたポルノ小説には邦訳がある。マーク=ブラッドストーンという筆名で書いたものがフランス書院から出版されているのだ。私は読んだことがないが、題名は『女子寮』というらしい。

Gemini Rising (English Edition)

Gemini Rising (English Edition)