ハイエナ
ロバート=E=ハワードに"The Hyena"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1928年3月号で、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルク=オーストラリアなどが無償公開しているが、私の知る限り邦訳はない。
主人公のスティーヴはルイジアナ出身の男性。遠縁の親戚であるルドウィク=ストロルヴァウスを頼り、アフリカの東海岸に来ている。現地人の呪術師セネコザは強力な魔法を使えるという評判の人物。身長は2メートル近く、体重は100キログラムという巨漢だが、その立ち居振る舞いは優雅にして威厳がある。セネコザは現地人からは畏怖され、ルドウィクのような白人からも敬意を払われていたが、スティーヴだけは彼に反感を抱いていた。
ルドウィクの従姉妹に当たるエレンがニューヨークからやってきた。彼女がセネコザに近づくことにスティーヴは反対するが、笑い飛ばされてしまう。そこへハイエナが現れて襲いかかった。スティーヴはハイエナと戦い、腕に傷を負いながらも追い払うことに成功した。
セネコザの陰謀が明らかになった。彼は現地人を糾合して決起し、アフリカから白人を追い出そうとしていたのだ。スティーヴとエレンは囚われてしまったが、からくも脱出する。ルドウィクと仲間たちが駆けつけ、セネコザの潜んでいる茂みに銃弾の雨を降らせる。茂みから小屋へと続くハイエナの足跡をたどっていくと、小屋の中には息絶えたセネコザが横たわっていた――と語られ、彼が獣人であったことが示唆されて幕となる。
発表されたのは1928年だが、執筆したのは自分が18歳の時だとハワードは1933年6月15日付のラヴクラフト宛書簡で述べている。ハワードの最初期の作品であり、ダーレスでいえば「蝙蝠鐘楼」に相当するだろう。ハワードの人種主義が反映された作品なのだろうが、セネコザは敵役ながら相当かっこいい。奪われた土地を取り戻し、アフリカ人の国を作るために戦う彼のほうが主人公よりもヒロイックに見える。このような複雑さがハワードの作品に見られることについて、もしかしたら彼は白人優越主義の誤りに気づいていたのかもしれないと故チャールズ=R=ソーンダーズが考察している。*1また人種によらず敵を魅力的に描くのはハワードの得意とするところであり、セネコザから後年のトート=アモンやエルリク=ハーン*2といったキャラクターの創造につながっていったのだろう。
話はこれだけなのだが、実はセネコザとヘレンが愛し合っていたという二次創作があり、二人の子孫のことがフィリップ=ホセ=ファーマーの公式サイトで語られている。
WOLD NEWTON UNIVERSE: A SECRET HISTORY-Hyde and Hair: Part Four Hyde and Heirs
念のために断っておくと、ファーマー本人ではなくデニス=E=パワーという人が書いた文章だ。「ハイドの血脈」という題名から察しがつくかもしれないが、エレンはヘンリー=ジキル博士の孫娘だったという設定。セネコザは偉大な人物だったとされているが、彼の子孫が悲願を受け継いで大業を成し遂げたのかと思いきや全然そんなことはなかった。なんとシャーマン=クランプ教授の先祖がセネコザなのだそうだ。