クトゥルー神話の三聖が選ぶ怪奇傑作十編
The Fantasy Fanの1934年10月号に「ラヴクラフトの怪奇傑作十選」が載っているそうだ。H.P. Lovecraft's Favorite Weird Talesからの孫引きになるが、その顔ぶれを見てみよう。
- ブラックウッド「柳」
- マッケン「白い粉薬のはなし」
- マッケン「白魔」
- マッケン「黒い石印のはなし」
- ポオ「アッシャー家の崩壊」
- シール「音のする家」
- チェンバース「黄の印」
- ジェイムズ「マグナス伯爵」
- ビアス「ハルピン・フレイザーの死」
- メリット「ムーン・プール」
H.P. Lovecraft's Favorite Weird Tales: The Roots of Modern Horror
- 作者:Various
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: ペーパーバック
なお、ここでいう「ムーン・プール」は第1部のみを指すそうだ。現在では第2部と合わせて長編『ムーン・プール』を構成するのだが、ラヴクラフトは続きの部分を気に入っていなかったという。
The Fantasy Fanはこの企画を続け、翌々月に今度は「クラーク=アシュトン=スミスの怪奇傑作十選」を載せた。こちらはThe Eldritch Darkに再掲されている。
- チェンバース「黄の印」
- シール「音のする家」
- ブラックウッド「柳」
- ジェイムズ「丘からの眺め」
- ビアス「ハルピン・フレイザーの死」
- ポオ「アッシャー家の崩壊」
- ポオ「赤死病の仮面」
- マッケン「白い粉薬のはなし」
- ラヴクラフト「クトゥルーの呼び声」
- ラヴクラフト「異次元の色彩」
www.eldritchdark.com
自分の親友を十選に含める度胸はラヴクラフトにはなかったようだが、スミスは堂々とラヴクラフトを推している。しかも二つ作品を挙げるというエドガー=アラン=ポオ並の特別待遇だ。いかにもスミスらしいが、結果として非常にバランスのよい布陣になっている。
ところで実は前段があり、ラヴクラフトやスミスに先駆けて6月号に「オーガスト=ダーレスの怪奇傑作十選」が載っていたという。どこかで読めないものか――と思っていたところ、ありがたいことにアイオワ大学の図書館が無料公開していた。ちなみに、前述した10月号や12月号も閲覧可能だ。
- ブラックウッド「柳」
- ビアス「カルコサの住民」
- チェンバース「黄の印」
- クロフォード「上段寝台」
- ジェイコブズ「猿の手」
- ジェイムズ「丘からの眺め」
- デ=ラ=メア「シートンのおばさん」
- シール「音のする家」
- ウェルズ「世界最終戦争の夢」
- フリーマン「壁にうつる影」
diyhistory.lib.uiowa.edu
マッケンが外れてH.G.ウェルズが入るなど、ダーレスらしく視野の広さを感じさせる。血も凍るような「ハルピン・フレイザーの死」ではなく、ハスター神話の源流たる「カルコサの住民」を選んでいるあたりも彼らしい。
かくしてクトゥルー神話の三聖が揃い踏みしたわけだが、こういう史料が残っているのは嬉しいことだ。The Fantasy Fanを発行していたチャールズ=D=ホーニグや、公開してくれているアイオワ大学図書館に感謝したい。