新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

S.O.S.

アルジャーノン=ブラックウッドに"S.O.S."という短編がある。初出はThe Story-tellerの1918年3月号。余談だが、この月刊誌にはチェスタートンの「ブラウン神父」も何編か掲載されたことがある。 en.wikisource.org クリスマスの季節、語り手とドロシー…

せわしない水

ロバート=E=ハワードに"Restless Waters"という短編がある。 en.wikipedia.org ウィキペディアではフェアリング*1の物語に分類されているが、これは正しくない。また初出がSpaceway Science Fictionの1969年9-10月号だというのも間違いで、正しく…

クトゥルーの出身地

1930年にウィスコンシン大学マディソン校を卒業したダーレスはミネアポリスの出版社に就職した。ミネアポリスの隣にはセントポールがあり、後にアーカムハウスの共同経営者となるドナルド=ワンドレイが住んでいた。彼は1930年11月23日付のラヴ…

死の接触

ロバート=E=ハワードに"The Touch of Death"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1930年2月号で、そのときは"The Fearsome Touch of Death"という題名だった。だがハワード本人が作成した作品目録では"The Touch of Death"となっているため…

モホーン=ロスからの手紙

クラーク=アシュトン=スミスの"The Letter from Mohaun Los"を読んだラヴクラフトは1931年5月12日付のスミス宛書簡で「きわめて鮮烈で印象的」「夢中になって読みました」と感想を述べている。この作品をスミス自身は1931年8月18日付のダー…

誰にも真似できぬ作家

ラヴクラフトはエイブラハム=メリットとダンセイニ卿の本をC.L.ムーアに贈ったことがあり、ムーアが1936年1月30日付の手紙でお礼を述べている。 まずは、すばらしい御本をくださったことに尽きせぬ感謝を申し上げます。ダンセイニの本をこんなに…

カソネットの最後の歌

ロバート=E=ハワードに"Casonetto's Last Song"という短編がある。1973年まで日の目を見なかった作品で、現在はThe Horror Stories of Robert E. Howardで読めるものの邦訳はない。The Horror Stories of Robert E. Howard (English Edition)作者:How…

スカーフェイスとラヴクラフト

『暗黒街の顔役』という映画がある。アル=カポネの生き様から着想を得たギャング映画だが、原作者のアーミティッジ=トレイルはフランク=ベルナップ=ロングの知り合いで、ラヴクラフトともわずかながら縁があった。Scarface: The Novel. The Legend. (Eng…

バラモンの知恵

"The Brahmin's Wisdom"という掌編がある。クラーク=アシュトン=スミスの作品としてCrypt of Cthulhuの27号(1984年万聖節号)に掲載されたが、真の作者が誰だったかは後述する。 www.eldritchdark.com 題名から察しがつくように、インドとおぼしき…

ペルトンヴィルの恐怖

昨日に続いてリチャード=A=ルポフの作品を紹介したい。2004年に発表された"The Peltonville Horror"という短編だ。クトゥルー神話色が濃厚な話で、現在ではThe Doom That Came to Dunwichに再録されている。The Doom That Came to Dunwich: Weird mys…

幻夢郷ものがたり

リチャード=A=ルポフに"Villaggio Sogno"という短編がある。2004年にマイク=アシュリーが編んだThe Mammoth Book of Sorceror's Talesが初出の作品で、題名はイタリア語で「夢の村」を意味する。 主役はマルゲリータと、その親友のフランチェスカ。…

ラヴクラフトのブラックウッド論

昨日の記事*1で申し上げたように、アルジャーノン=ブラックウッドのStrange Storiesがラヴクラフトとダーレスの文通で話題になったことがある。このとき、1930年1月下旬から2月上旬の間にラヴクラフトが書いた手紙では好きな作品として「エジプトの奥…

海神が来る夜

アルジャーノン=ブラックウッドにStrange Storiesという短編集がある。この本が1929年にハイネマンから刊行されたとき、興味を覚えたラヴクラフトは1929年12月15日付のダーレス宛書簡で「『柳』と『ウェンディゴ』が収録されているといいんです…

ラヴクラフトが行きたがった外国

ラヴクラフトが行ったことがある唯一の外国はカナダだ。だいぶ気に入ったらしく、三度もケベックを訪れている。だが寒いのが苦手な彼としてはむしろ南の国に関心があったのではないか――と思っていたら、1930年1月14日付のジェイムズ=F=モートン宛…

デュマとダンセイニと

ラヴクラフトがロマンス小説を受け付けようとしないことに対し、C.L.ムーアは1935年12月7日付の手紙で意見を述べている。 幻想文学に対する先生の愛情や理解と対照的なロマンスへの嫌悪について申し上げたいことがございます。デュマが書いたもの…

海の呪い

ロバート=E=ハワードの初期の作品に"Sea Curse"という短編がある。1926年の初秋にウィアードテイルズの編集部に受理され、1928年5月号に掲載された。現在では公有に帰しており、ウィキソースなどで原文が無償公開されている。 en.wikisource.org…

人狼の森で

ラヴクラフトは1930年からロバート=E=ハワードと文通していたが、1933年まで相手の年齢を知らなかった。1933年3月25日付のハワード宛書簡で彼は次のように述べている。 ところで――あなたがまだ27歳だと最近わかって、私は本当に驚きまし…

ルルイエの夢

昨日の記事でリン=カーターの"Visions from Yaddith"を照会したが、彼のクトゥルー神話詩編といえば代表作は"Dreams from R'lyeh"だろう。ウィルバー=ナサニエル=ホーグという青年詩人に仮託して書かれたもので、31編の十四行詩から構成されている。そ…

ウィア荘の夢

リン=カーターに"Dreams in the House of Weir"というクトゥルー神話短編がある。1931年の英国が舞台で、自殺した主人公が遺した日記からの抜粋という体裁の作品だ。 主人公のヘアトン=ペインはサンスクリット語の専門家で、11世紀インドの詩人ビル…

ダーレスが「ウェンディゴ」を手に入れるまで

ダーレスは1927年からアルジャーノン=ブラックウッドと文通していたと前に申し上げた。*1ブラックウッドから初めて返事をもらったダーレスは、そのことを1927年1月の手紙でラヴクラフトに報告している。 先日アルジャーノン=ブラックウッドから手…

恐怖のアイスクリーム

昨日に続き、C.L.ムーアが1936年10月24日から12月15日にかけて書いたラヴクラフト宛書簡から引用する。話題は多岐にわたっているのだが、アイスクリームのことも書いてあった。 先生がそこまでアイスクリームに耽溺しておられると伺い、私は…

謎のメキシコ土産

ラヴクラフトがダーレスに宛てて書いた1936年10月24日付の手紙から。 奇怪な物品の話でしたら――先日サンフランシスコ在住の人物から興味深いお便りをもらったんですよ。どうやら学識のある人らしく、スチュアート=モートン=ボランドという名前です…

「プトゥームの黒い僧院長」の続き

クラーク=アシュトン=スミスの「プトゥームの黒い僧院長」はゾティークの物語だ。『呪われし地』と『ゾティーク幻妖怪異譚』に邦訳が収録されているので詳しい粗筋は不要だろうが、ルバルサという美少女をホアラフ王の後宮に連れていく兵士たちと宦官が泊…

閉ざされた家

ダーレスに"The Shuttered House"という短編がある。サック=プレーリーを舞台とした話だが、初出はウィアードテイルズの1937年4月号だ。"The Return of Andrew Bentley"*1や"Wild Grapes"*2と同じく、ダーレスの怪奇文学と郷土文学の交差点になる作品…

瞥見

Nameless Placesは1975年にアーカムハウスから刊行されたアンソロジーだ。この本に収録されている作品のうち、ドレイクの"Awakening"*1やジャコビの"Chameleon Town"*2やラムレイの"What Dark God?"*3を弊ブログではこれまでに紹介しているが、今回はA…

お喋りな娘たち

ベイジル=コッパーに"The Gossips"という短編がある。1973年にアーカムハウスから刊行されたFrom Evil's Pillowを初出とする作品だ。 無名の語り手が25年前のイタリア旅行のことを回想しているところから物語は始まる。グリッソンという英国人と知り…

ソーンダーの小さな友達

ダーレスに"Saunder's Little Friend"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1948年5月号で、同年アーカムハウスから刊行されたNot Long for This Worldに収録された。その後も様々なアンソロジーに繰り返し再録されており、地味ながら人気作だ…

ジョーンズの狂気

昨日に続いてアルジャーノン=ブラックウッドの作品集の話題だ。The Listener and Other Storiesには九つの短編が収められている。 幻の下宿人 毒殺魔マックス・ヘンシッグ 柳 The Insanity of Jones 死の舞踏 幻影の人 五月祭前夜 スランバブル嬢と閉所恐怖…

発見した男

アルジャーノン=ブラックウッドにはThe Wolves of God and Other Fey Storiesという作品集がある。1921年にE.P.ダットンから刊行されたもので、現在では公有に帰しているためプロジェクト=グーテンベルクで読むことが可能だ。 www.gutenberg.org …

死せる家々

昨日の記事で紹介したLeavesの第1号にはエディス=ミニターの"Dead Houses"が掲載されている。ミニター夫人はアマチュアジャーナリズムが縁でラヴクラフトと親交を結んだ人だが、その作品はひとつも邦訳されていない。せっかくなので読んでみた。 "Dead Hou…