ダーレスが「ウェンディゴ」を手に入れるまで
ダーレスは1927年からアルジャーノン=ブラックウッドと文通していたと前に申し上げた。*1ブラックウッドから初めて返事をもらったダーレスは、そのことを1927年1月の手紙でラヴクラフトに報告している。
先日アルジャーノン=ブラックウッドから手紙が来ました。彼自身The Empty HouseもThe Lost Valleyも持っていないそうですが、ロンドンの本屋を紹介してくれました。そこになら在庫があるかもしれないということです。万事が好調なら傑作選がすぐに復刊されるかもしれないと教えてもらいました。「ウェンディゴ」のことはずいぶん聞いたり読んだりしましたし、実際The Lost Valleyを欲しいと思ったのはあの作品が主な動機になっています。
「ウェンディゴ」を読んで大いに感銘を受けたダーレスは「風に乗りて歩むもの」を書くが、この時点ではまだ手に入れていなかったわけだ。なお、上に引用した手紙で彼は綴りを"Wendigs"と間違え、ラヴクラフトに訂正されている。
ダーレスがブラックウッドに出した手紙は単なるファンレターではなく、単行本を購入するという目的があったことが窺える。作者から直に買おうとするあたりが彼らしい行動力の表れだが、その後ダーレスは無事に本を注文できたらしく、ラヴクラフトが1927年3月26日付の手紙で「よい投資をなさいましたね」と賛意を表している。
私はいつでもアルジーの味方なのですが、この点でロングはしょっちゅう私と衝突しておりまして、ブラックウッドの文体のまずさや選別力のなさを嫌うあまり彼の幻想的洞察をことごとく無視する始末です。私が書いた文学史概説ではブラックウッドをきわめて高く評価しておりますよ――ちなみに、その原稿はいま校正中なので、1カ月か2カ月で君もごらんになれるでしょう。クックが全部まとめて出版するつもりなのか、それとも分冊になるのかは定かでありませんが。
ラヴクラフトは時々ブラックウッドを愛称で呼ぶことがあり、この手紙も一例だ。ダーレスが何と返事をしたのかは不明だが、ラヴクラフトは4月2日付の手紙でもまだフランク=ベルナップ=ロングとの対立を話題にしている。
「柳」と「ウェンディゴ」が傑作であることはロングも認めています――当代最高の恐怖小説の仲間入りをしていると――それでも総合的にはブラックウッドなど駄目だというのです。ブラックウッドのことになると、彼と私はかなり険悪ですよ。ブラックウッドの作品は玉石混淆だし、たまに何も考えずに書いていそうだったり説教臭くなったりするし、いくら何でも粗製濫造だろうと思うこともありますが、それでも彼こそは史上最高の幻想作家のひとりだと私は信じているのです。ブラックウッドには、人類が非現実を感知することに対する幻視と理解があり、それは私が他のところでは未だかつて見出していないものです。ですから、いくら文章がどんくさかったり下手くそだったりしても許せるのです。
本当に尊敬しているのかといいたくなるくらいラヴクラフトも文句が多い。だがラヴクラフトと愉快な仲間たちの中でロングはブラックウッドに対する評価がもっとも低く、逆にダーレスはもっとも入れ込んでいたということになりそうだ。
「ブラックウッドのサインを手に入れるとは強運でしたね」とラヴクラフトは1927年8月4日付のダーレス宛書簡で述べている。サインは原文では"autographs"と複数形になっているが、してみるとブラックウッド本人からもらったものではなく、たまたま買った本が作者のサイン入りだったということだろうか。そうだとしたら確かに強運だ。その後、1936年にダーレスはThe Lost Valleyをラヴクラフトへの贈物にしている。
- 作者:アルジャーノン・ブラックウッド
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