お喋りな娘たち
ベイジル=コッパーに"The Gossips"という短編がある。1973年にアーカムハウスから刊行されたFrom Evil's Pillowを初出とする作品だ。
無名の語り手が25年前のイタリア旅行のことを回想しているところから物語は始まる。グリッソンという英国人と知り合った語り手は、彼に誘われてシチリアの片田舎に行くことになった。その地方の領主である公爵が二人を歓待してくれる。グリッソンはナポリで博物館の館長をしており、公爵の領地にある彫像に関心を抱いていた。
語り手とグリッソンは連れ立って公爵の庭園へ像を見に行った。像のある区画だけ高い塀で囲まれている。塀の中にあったのは高さ15フィートほどの像が3体、いずれも薄物をまとった若い娘をかたどったものだった。語り手が像を眺めているうちに、ぺちゃくちゃという話し声が聞こえてくる。彼は前後不覚になって崖から転落しかけ、すんでのところでグリッソンに助けられた。二人が立ち去るとき、グリッソンのポケットから何かが落ちる。語り手が拾い上げると、それは耳栓だった。
何年も経ち、語り手はグリッソンに再会した。あの像がもたらす奇怪な効果のことは事前に知っていたのだという語り手に詫びるグリッソン。二人はフィレンツェの街で酒を酌み交わすが、アーサー=ジョーダンなる人物もそこに同席しており、シチリアの少女像にまつわる自らの体験を語りはじめた。
ジョーダンは博物館の学芸員で、ロンドンで催される大展覧会の準備をするために欧州各地を回っていた。例の少女像に眼をつけたジョーダンは、それをロンドンで展示することを思い立ち、公爵の同意を取りつける。像を運ぶために業者が呼ばれたが、作業の最中に像はいきなり倒れてしまい、たまたま現場に居合わせた少年が巻きこまれて命を落とした。像自体も損壊が激しく、やむなくジョーダンは手ぶらで引き上げる。
砕けたはずの像がロンドンに到着する。ジョーダンは不思議がるが、公爵が修繕してくれたのだろうと思って展示することにした。ジョーダンは公爵に手紙を書くが、旅行中ということで連絡は取れなかった。
像が元々あった庭園の光景を再現したところ、その雰囲気はすばらしいものだったが、模造された崖から警備員が落ちて死ぬという事件が発生する。観客の一人も同様に墜死し、とうとう像は撤去されることになった。ジョーダンは像をシチリアに送り返そうとするが、貨物船が嵐に遭って難破し、積んであった像も一緒に沈んでしまった。
像は海の藻屑と化したものと思われていたが、無事に届いたと礼を述べる手紙が公爵からジョーダンのもとに届いた。グリッソンとジョーダンは情報を交換する。200年前、公爵家の当主だったレオナルドは破廉恥な所業に耽った悪名高い人物だった。レオナルドには情婦として3人の少女がおり、天才彫刻家カラヴァッロが彼女たちをモデルにして彫刻を制作したという。
レオナルドの放埒な暮らしはいつまでも続きはしなかった。彼は不行跡を咎められて謹慎を余儀なくされ、3人の娘も姿を消してしまう。カラヴァッロは像を完成させてレオナルドのもとを辞去し、20世紀に至るまで彼の作品のみが残ることになったのだった。しかし、なぜ怪事が起こったのか? 公爵の手紙に書いてあった秘密をジョーダンは打ち明ける。像が砕けたとき、その中に隠されていたものが露になったのだった――3人の娘の骨が。
壊れたはずなのに甦り、行く先々で祟りを起こす芸術作品の物語。まさしく怪談話と呼ぶにふさわしい。シチリアに帰還した像がその後どうなったのかは明言されていないが、高い塀に囲まれた庭園に今でも立っているのではないかと思う。公爵は像の取り扱い方をよく心得ているようなので、彼に任せておけば大丈夫だろう。
- 作者:Copper, Basil
- 発売日: 1973/06/01
- メディア: ハードカバー