新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

南国のラヴクラフト

1934年5月、ラヴクラフトはフロリダのバーロウ家に滞在中だった。「フロリダはいつもながら爽やかで元気が湧いてきます」「私の活力は北国にいたときの3倍です」とラヴクラフトは5月19日付でダーレスに書き送っている。現地の気温は華氏86度(摂…

一族の恥

Over the Edgeというアンソロジーが1964年にアーカムハウスから刊行されている。収録されている未訳作品のうちライバーの"The Black Gondolier"*1やロングの"When the Rains Came"*2は以前このブログで記事にしたことがあるが、今回はジョン=メトカーフ…

『幽霊狩人カーナッキ』余話

『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』が刊行されてから2年後、1910年にウィリアム=ホープ=ホジスンが幽霊狩人カーナッキの物語を発表した。ラヴクラフトがジョン=サイレンスを愛読していたことは有名だが、カーナッキに対する評価はどうだったの…

自転車に乗ったラヴクラフト

ラヴクラフトは1934年8月の下旬に初めてナンタケット島を訪れたと『H・P・ラヴクラフト大事典』にある。この年のラヴクラフトはロバート=バーロウに招待されて5月から6月までフロリダに滞在し、その後ニューヨークに行ってロング一家と一緒にニュー…

作家が作家を語る

ラヴクラフトと愉快な仲間たちの文通で怪奇幻想作家がどれだけ言及されているか数えてみた。英国怪奇三傑にエドガー=アラン=ポオとダンセイニ卿を加えた5人を対象とし、ラヴクラフトの文通相手として特に重要な5人について言及回数を調べることにする。…

アレクサンダー、アレクサンダー

クラーク=アシュトン=スミスは1932年3月25日付のダーレス宛書簡でアルジャーノン=ブラックウッドの本の感想を述べている。 最近ブラックウッドの本を何冊か借りて読みました――Tongues of FireとThe Garden of Survivalです。どちらもたいへん気に…

死者が汝の妻を寝取るだろう

クラーク=アシュトン=スミスの"The Dead Will Cuckold You"を日本語に翻訳してみた。 www7a.biglobe.ne.jp これはゾティークを舞台にした戯曲で、執筆中であることをスミスは1951年2月22日付の手紙でダーレスに知らせている。4月15日、完成した…

眠っている人たち

昨日の記事で言及した"The Sleepers"という短編のことをダーレスは1926年9月6日付の手紙でラヴクラフトに報告している。 申し上げるべきかどうか迷ったのですが、"The River"を書き直したらライト氏がついに受理してくれました。現在は"The Sleepers"…

最初と最後のジョン=サイレンス

ラヴクラフトの蔵書目録によると、彼の家には『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』が2冊あったそうだ。1冊目は1908年にロンドンで刊行された初版本、2冊目は後にニューヨークで再版されたものだという。2冊目はダーレスからの贈物なのだが、ラヴ…

オンライン墓参り

Find a Graveというウェブサイトがある。 www.findagrave.com 墓地のデータベースであり、ラヴクラフトと愉快な仲間たちのお墓を見ることができる。オンライン献花も可能だが、検索機能はさほど強力ではないようだ。たとえばダンセイニで検索しても有名な1…

「アウトサイダー」余話

「アウトサイダー」について、ラヴクラフトは1931年6月19日付のヴァーノン=シェイ宛書簡で次のように述べている。 私は無意識のうちにポオを逐一なぞっており、その極致として「アウトサイダー」は代表的なものです。当時は作風を真似るだけでなく、…

丘の太鼓

今から100年前、1921年にラヴクラフトが執筆した小説はかなり数が多いが、そのひとつが「アウトサイダー」だ。ウィアードテイルズの1931年6-7月号に「アウトサイダー」が再掲されたとき、クラーク=アシュトン=スミスは1931年6月6日付…

アンポイの根

クラーク=アシュトン=スミスがダーレスに宛てて書いた1931年8月18日付の手紙より。 「ガーゴイル像彫刻師」についての御意見はすごくいいですね。ベイツから原稿が返ってくるようなら採用させていただきます。予定どおりに戻されないところを見ると…

絶対安全キノコ

ダーレスがラムジー=キャンベルに宛てて書いた1962年5月11日付の書簡より。 1964年に刊行予定のアンソロジーをどうするか計画はあまり固まっていませんが、君の作品は必ず収録を検討させてもらいますよ。ですが第一に君の単行本です。そちらのほ…

深淵の夢

今から100年前に書かれた作品として「イラノンの探求」を一昨日の記事で取り上げたが、ラヴクラフトは同じ年に「蕃神」も執筆している。The Fantasy Fanの1933年11月号に「蕃神」が掲載されたとき、ラヴクラフトは1933年11月29日付のクラー…

ラヴクラフトの自称弟子

アーカムハウスから刊行されたラヴクラフトとゼリア=ビショップの合作集についてボビー=デリーが記事を書いている。 deepcuts.blog 1937年にラヴクラフトが亡くなり、ダーレスたちが彼の代作や合作を探し回るところから話は始まるのだが、そのとき助言…

頌春

新年あけましておめでとうございます。 丑年に因んだ記事でも書こうかと思ったのだが、クトゥルー神話に出てくる牛を思いつかない。しばらく本棚を漁ったら、ナイアーラトテップの化身として「黒い雄牛」が『マレウス・モンストロルム』に載っていた。199…

スミスの怪談講評

The Best Ghost Storiesというアンソロジーを読んだ感想をクラーク=アシュトン=スミスが1932年3月4日付のダーレス宛書簡で述べている。 すべて読み通し、M.R.ジェイムズの「アルベリックの貼雑帖」が収録作の中で一番よかったという印象を受けま…

ポオとダンセイニとムーア

ラヴクラフトに宛てた1935年5月27日付の手紙でC.L.ムーアがダンセイニとポオの話をしている。 私が何かを薦めるときはいつだってワーズワース風にたなびく栄光の雲で見る眼が曇っているのだろうということを御了承ください。私が十代の頃は、とて…

暗黒のファラオの呪い

本棚の片隅で埃をかぶっていたThe Nyarlathotep Cycleを久々に引っ張り出してみた。1997年にケイオシアムから刊行されたアンソロジーだが、この本にはダンセイニ卿の『ペガーナの神々』から「予言者アルヒレト=ホテップ」と「探索の悲しみ」の2編が収…

アヌビスとの対話

LORE: A Quaint and Curious Volume of Selected Storiesの収録作からもうひとつだけ紹介させていただく。ハーラン=エリスンの"Chatting with Anubis"という作品だ。1995年度のブラム=ストーカー賞を短編部門で獲得しているが、邦訳はない。 アフリカ…

乗り物

昨日に続いてLORE: A Quaint and Curious Volume of Selected Storiesから1編を紹介したい。ブライアン=ラムレイの"The Vehicle"という短編で、Loreの8号(1997年秋季号)が初出だ。 とある英国の沼にフリトニ星人の宇宙船が不時着した。宇宙船といっ…

地底からの挑戦

C.L.ムーアがラヴクラフトに宛てて書いた1935年10月8日付の手紙から。 ファンタジー誌の企画のリレー小説ですが、なんという混乱でしょう。先生の御負担が軽いものであればいいのですが。序章はなるべく奇怪かつ独創的にしてほしいとシュワルツ氏…

ラヴクラフトのクリスマス

ラヴクラフトはクリスマスをどのように過ごしていたのだろうか。1932年の暮れに彼が書いたダーレス宛書簡から訳出してみる。 若きサルダナパール――または豪奢なる若き満州皇帝、その宮廷の奇異にして異国情緒あふれる歓楽について黙想するHsuan-Yi-Kiang…

月の邦は暗々と

ヒポカンパス=プレスからはラヴクラフトの書簡集がたくさん刊行されているが、中でもC.L.ムーア宛のは異色だ。往復書簡集になっているのだが、ムーアから送られたものが大半を占めているので、ムーアのラヴクラフト宛書簡集と呼んだほうが実態に近い。 …

翻訳家スミス

クラーク=アシュトン=スミスはボードレールの詩の英訳を手がけており、時折ウィアードテイルズに掲載されることもあった。*1そして逆に英文を仏訳したこともある。1931年9月18日付のスミス宛書簡でダーレスが依頼したのだ。 お願いがあります。Peop…

カダス夜話

ラヴクラフトは「未知なるカダスを夢に求めて」を1927年1月22日に書き上げたが、その原稿を彼の生前に読んだものは稀だった。ラヴクラフトは1930年9月25日頃のクラーク=アシュトン=スミス宛書簡で次のように語っている。 私が純粋な幻想小説…

帰ってきたスカルフェイス

ロバート=E=ハワードが1931年2月頃に書いたラヴクラフト宛の手紙から。 いいえ、ウィアードテイルズがまた月刊誌になれるかどうかについては何も聞いておりません。でも、そうなってくれると嬉しいですね。あの隔月刊化がなくても僕は売り込み先の雑…

征くぞ、旭日の彼方まで

昨日の記事でタルサ=ドゥームの話をしたが、彼がロバート=E=ハワードの作品に再登場することはなかった。だがハワードの遺した断章をリン=カーターが補って完成させた"Riders Beyond the Sunrise"ではカルとタルサ=ドゥームの因縁の決着が語られている…

猫と髑髏再び

タルサ=ドゥームといえば映画『コナン・ザ・グレート』の悪役として有名だ。彼の初出はロバート=E=ハワードの"The Cat and the Skull"なのだが、これはコナンではなくカルが主役の話だ。 "The Cat and the Skull"はハワードの生前には発表されず、196…