ソーンダーの小さな友達
ダーレスに"Saunder's Little Friend"という短編がある。初出はウィアードテイルズの1948年5月号で、同年アーカムハウスから刊行されたNot Long for This Worldに収録された。その後も様々なアンソロジーに繰り返し再録されており、地味ながら人気作だ。
アガサおばが亡くなり、甥のラネリー=ソーンダーが遺産を相続することになった。ソーンダーはアガサおばの家に引っ越したが、彼女がもっとも気に入っていた部屋にあるものを動かしてはならないという条件つきだ。椅子の位置を変えることすら許されないと遺書にはしたためてあった。
ソーンダーは意に介さずに部屋を引っかき回す。引き出しの中に粘土の塊があり、ソーンダーは衝動に突き動かされて捏ねた。気がつくと、年度は人間に似た怪物の形になっていた。そのとき知人が訪ねてきたので、ソーンダーは粘土を放り出して出迎えたが、後で部屋に戻ると怪物の像はどこにも見当たらなかった。ただ余った粘土が机の上に取り残されているばかりだ。慌てた弾みに像を落として潰し、粘土の山の中に紛れさせてしまったのだろうとソーンダーは思った。
次の日から奇怪なことが始まった。ソーンダーが料理店や劇場に行くと、ペットを連れこまないでくださいと注意を受けるのだ。小動物がソーンダーについて回っているのが周囲の人間には見えるらしかった。しかも家の壁の中にはネズミがいるらしいのだが、罠を仕掛けても一向に捕まってくれなかった。
ソーンダーはアガサおばの遺品の中から魔術書を見つけ、その本を彼女に売ったインド人の書店主を訪問した。「ただの珍本ですよ」と書店主は説明する。そして本屋を去ろうとするソーンダーを後ろから呼び止め、ペットをお忘れなくと付け加えた。
ソーンダーが再び家捜しをすると、アガサおばのお気に入りだった部屋の引き出しから、彼が衝動的に作った怪物の像が出てきた。そいつは生きているかのように動いており、残っていた粘土で何かを制作している最中だった。作業はほぼ完了しており、新しい人形ができていた。
ソーンダーは怪物とそいつの作品をひっつかみ、暖炉の中に放りこんだ。彼がもっと注意深ければ、怪物が作った粘土の人形が朧気ながら自分に似ていることに気づいただろう。人形が炎に包まれると、ソーンダーは顔に苦悶の表情を浮かべて倒れた。発見された彼の遺体に目立った外傷はなかったが、検死に当たった医師の証言によると、なぜか体内がひどく焼けただれていたそうだ。
労せずに大金を手に入れたのだから、せめて故人の意思くらい尊重しようぜというお話。アガサおばさんが遺したものは、呪いの人形を作るための人形を作らせるための呪いだった。さても回りくどいが、ソーンダーがアガサおばとの約束を何遍も繰り返して破らない限り実害は発生しないのだから、彼女としては踏みとどまる機会を甥に与えたつもりだったのかもしれない。粘土細工の怪物がせっせと人形をこしらえている光景が奇妙なユーモアを感じさせ、なかなか洒落た印象を与える作品だ。