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主にクトゥルー神話のことなど。

ミステリ好きのラヴクラフト

 ラヴクラフトが1934年11月19日に書いたドゥエイン=ライメル宛の手紙より。

最近ダーレスが彼の推理小説の最新作を私にくれたんですよ――"The Man on All Fours"という題名です――1週間で書き上げた三文小説だというのですが、それにしては非常に頭のいい作品です。よろしかったら、いずれお貸しいたしましょう――もちろん怪奇小説ではありませんが。

 The Man on All Foursはペック判事を主役とする長編ミステリで、その年に刊行されたばかりだった。続く12月22日付の手紙でもラヴクラフトはこの作品を話題にしている。

ダーレスの"The Man on All Fours"は私の叔母が読み終わり次第お送りいたします。そういうものとして読めば、まったく悪くない作品ですよ。

 ギャムウェル夫人がダーレスの小説を読んでいたというのは初耳だった。年が明けて1935年1月28日。

ダレット伯爵の"The Man on All Fours"は取り戻したら直ちに発送します――そんなに遅くならずに戻ってくるものと信じております。やることが他にいろいろとあるものですから「超時間の影」はまだ書き終えることができておりません――私はたっぷり時間がとれないことには創作ができないのです。

 叔母さんがなかなか返してくれなかったのだろうか。そば屋の出前じみてきたが、この手紙の追伸でラヴクラフトは「すぐに発送します」と連絡している。

どれだけ早く真犯人を突き止められるか挑戦してみてください。私は32ページ目でわかりましたよ。楽しんでくださいますように。お好きなだけ手許に留めておいてくださってかまいませんし、エフ=リにも読ませてあげてくださいね。

 エフ=リというのはF=リー=ボールドウィンのこと。この小説は244ページあるのだが、32ページ目で真犯人がわかるというのは早くないか。それはさておき本は無事にライメルのもとへ届き、ラヴクラフトの1935年3月10日付の手紙から彼の反応が窺える。

"The Man on All Fours"がお気に召したようで良かったです。急ぐには及びません――お手隙なときにエフ=リにも読ませてあげてください。君も私と同程度まで読み進めたところで真犯人がわかったでしょう。本当に頭のいい作品で、私は推理小説には食傷気味だったのに楽しみましたよ。ダーレスの推理小説の新刊はすぐにでも発売される予定です――それから4月24日には純文学の"Place of Hawks"が出ます。それにしても奇妙なことに、私はヴァン=ダインを一冊も読んだことがないのですよ。何年も前、彼の第1作がスクリブナーに連載されていたとき、私の叔母がその雑誌を購読していたのですけどね。

 よかったら『ケンネル殺人事件』を貸しましょうかとライメルは申し出たのだが、ラヴクラフトは多忙を理由に断っている。そしてラヴクラフトの1935年4月16日付の手紙を読むに、ボールドウィンもダーレスの小説を読んだらしい。

"The Man on All Fours"を皆が気に入ってくれたようで何よりです。ダーレスの推理小説といえば"Three Who Died"が新しく出ましたが、こちらもお貸ししましょうか? これは前作よりも際だって利口で――いかにもありそうな真に迫った内容です。その反面、ストーリーは見るべきものが少なめになり、より単刀直入な謎解きものになっています。前作よりも真相究明に時間がかかりましたよ――252ページあるうち145ページ目になるまで結末が予測できませんでした。

 この新作も発送したとラヴクラフトの1935年6月30日付の手紙にある。相変わらずライメルは『ケンネル殺人事件』を薦めていたようだが、当時ロバート=バーロウを訪問中だったラヴクラフトは「フロリダから戻ったら借りるかも」とだけ述べており、その後どうなったかは不明だ。ラヴクラフトの蔵書目録を見るとダーレスの推理小説が何冊もあるのだが、友達と回し読みしていたとは楽しそうでいい。