新・凡々ブログ

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乗り物

 昨日に続いてLORE: A Quaint and Curious Volume of Selected Storiesから1編を紹介したい。ブライアン=ラムレイの"The Vehicle"という短編で、Loreの8号(1997年秋季号)が初出だ。
 とある英国の沼にフリトニ星人の宇宙船が不時着した。宇宙船といっても、その全長は6インチ(約15センチ)しかない。極小の異星人が地球にやってくるSFといえばジョン=ウィンダムの「宇宙からの来訪者」があるが、あれはとても哀しい話だった。ラムレイの作品はずっと脳天気だ。

時間の種 (創元SF文庫)

時間の種 (創元SF文庫)

 宇宙船に乗っているのはサール・クリー・インスの3人。彼らの船は動力が尽き、飛び立つことができない。フリトニ星人は動力源を調達することにするが、乗り物になってくれる生物は不時着の際の衝撃で死んでしまった。やむなく彼らは地球上の生物を乗り物として使うことにする。宇宙船は少しずつ沼に沈んでおり、急がなければならなかった。
 そこへやってきたのはハリー=コーギンという凶悪犯。身長190センチ以上、体重100キロ以上という巨漢で、生まれついての悪知恵と腕力で暗黒街の顔役にのし上がった男だ。逮捕されて終身刑を宣告されたものの脱獄し、現在は逃亡中だった。フリトニ星人はコーギンの頭の中に制御装置を打ちこみ、彼の体を乗っ取ってしまった。制御装置にはサールが乗りこんで操縦を行う。
 フリトニ星人に操られたコーギンは宇宙船のエネルギーを手に入れるために出かけていき、パトカーを見つけてバッテリーを強奪する。彼は警官や刑事を蹴散らし、銃弾を体に打ちこまれながらも宇宙船まで帰り着いた。エネルギーを確保したフリトニ星人は無事に宇宙船を離陸させるが、新しい乗り物として使うために蝶を連れていった。その蝶の脚に付着しているのは何かの花粉だ。もしもフリトニ星人が異星で蝶を乗り回せば、ゆくゆくは地球の花との交配種がそこで咲き乱れることになるかもしれない。
 異星人の宇宙船の動力源になるのが自動車のバッテリーとは、いかにもラムレイらしい。仮にもロア傑作選と銘打たれた本に収録されているのがこれでいいのかというのが率直な感想だ。1997年に発表された作品にしては古めかしい感じがするのだが、実は1976年に書いたものが21年がかりで日の目を見たのだとラムレイが公式サイトで語っていた。
www.brianlumley.com

 1976年2月に僕は"The Vehicle"を書き上げた。元々はKadathに掲載される予定だったと思う。Kadathというのはフランチェスコ=コヴァが発行していたイタリアのファンジンだが、すでに世を去って久しい。そしてフランチェスコも……零細出版社とその経営者を呑みこむ虚無の中へ消えていったのだ。その後、Amuletという英国のファンジンに"The Vehicle"は半分だけ(?)掲載された。Amuletもまた魔神に呪われし虚無に呑みこまれた。同誌は僕の手許にはなかった。あったとしても、大きなトランクにしまってある2000ページ分の旧作の直中に埋もれてしまっていた。
 1997年にプロヴィデンスで第3回NecronomiConが開催され、僕はロバート=H=ノックスに会った。"The Vehicle"がAmuletに掲載されたときにイラストを描いてくれた人だ。"The Vehicle"のことを覚えているかと彼は訊ね、まだ現物を持っているといった――しかもイラストの原画まで残っていたのだ! そして同じ大会で、Loreの編集長にして発行人であるロッド=ヘザーにも僕は会ったのだった。

 待てば海路の日和ありということだろう。なおラムレイはKadathをファンジンとしているが、The FictionMags Indexによるとセミプロ誌だそうだ。
www.philsp.com