新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

マニトウの葬礼

 グレアム=マスタートンのBurialは〈マニトウ〉シリーズの3作目として1991年に出版された。前作とは12年の間隔が空いているが、作中でもそれくらいの歳月が経過したことになっている。
 主人公のハリー=アースキンは相変わらずニューヨークで占い師をしている。堅気の稼業で身を立てようと思って転職したこともあるが、うまく行かなかったのだ。そんな彼のところにカレン=タンディが訪ねてきて、友人のグリーンバーグ夫妻が怪異に苦しめられているから助けてやってほしいと依頼する。本物の霊能力者でない自分にできることなど高が知れていると思いつつ、カレンの頼みとあっては無下に断るわけにもいかない。ハリーは重い腰を上げることにした。
 グリーンバーグ夫妻の住んでいるアパートにハリーが行ってみると、確かに異様なことが起きていた。ダイニングルームの家具がことごとく壁際に引き寄せられ、元の位置に戻そうとしても動かない。そして奥さんのナオミはその場所から動かず、何かに憑かれた様子で意思の疎通もできない有様だった。
 本物の霊能力者を呼んでくるしかないと考えたハリーはアメリア=クルーソーに相談することにした。『マニトウ』で焼死したはずの彼女が何事もなかったかのように再登場することについて、ど忘れしていたのだとマスタートンは語っている。映画ではアメリアは死んでおらず、そのことも勘違いの一因になったらしい。
www.grahammasterton.co.uk
 アメリアはマーティン=ヴェイジーなる人物を紹介してくれたが、彼の協力は裏目に出てしまった。何者かの精神攻撃を受けて凶暴化したマーティンはナオミの喉に腕を突っこみ、彼女の身体を裏返そうとするかのように臓腑を引きずり出して惨殺する。マーティンはついでに夫のマイケルも殴殺し、殺人の現行犯で逮捕された挙句、拘置所でミスクアマカスに殺されてしまった。
 おわかりだろうが、すべてはミスクアマカスの仕業だった。彼の呪術により、ニューヨーク・シカゴ・ラスヴェガスといった都市でビルがずぶずぶと地中に沈んでいく。白人の文明を「影の世界」に呑みこませ、侵略される前の清浄な大地を取り戻そうというのだ。なお前作はクトゥルーやオサダゴワアが出てきて賑やかだったが、この巻では一度クトゥルーが言及されるだけだ。今回ミスクアマカスが頼るのはAktunowihioといってシャイアン族の地底の神様だそうだが、正体が旧支配者だと示唆されることもない。ただし威力はすさまじく、各都市で万単位の犠牲者が出た。
 さすがのミスクアマカスも霊体のままでは何かと不便らしく、カレンに自分を産ませて甦る計画にまだ拘っていた。ただし今回は奇形嚢腫ではなく子宮に宿るつもりなので、精子の提供者が必要になる。操られて「おまえの子種をよこせえ」とハリーに迫るカレン。そんなことをいわれても中身はミスクアマカスだ。
 生きている間はいいところのなかったマーティンだが、死んで霊になった後で重要な情報を提供してくれた。彼の持っていたフォークを使えばミスクアマカスの霊を消滅させられるというのだ。このフォークがネイティブアメリカンの文化と何か関係しているのかと思いきや、実はケルトの遺物だったりする。また前作で死亡したジョン=シンギングロックの霊もハリーに加勢してくれる。
 瓦礫の山と化したマンハッタンで、カレンの肉体を乗っ取って実体化したミスクアマカスと対決するハリーたち。怨念パワーを全開にして絶好調のミスクアマカスの前にハリーは絶体絶命だったが、アメリアが持ってきてくれたフォークを彼に突き刺すことに成功した。ミスクアマカスは悲鳴を上げて崩壊し、代わりにカレンが現れる。ハリーはカレンと結婚し、彼女が妊娠したところで話は終わるのだが、もう悪い予感しかしない。

Burial (Manitou Book 3) (English Edition)

Burial (Manitou Book 3) (English Edition)