新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

逆襲のマニトウ

 Revenge of the Manitouはグレアム=マスタートンの〈マニトウ〉シリーズの2作目だ。伝説の大呪術師ミスクアマカスが再び甦ろうとし、占い師のハリー=アースキンが盟友のジョン=シンギングロックとともに立ち向かう。『マニトウ』はニューヨークが舞台だったが、今回はカリフォルニアの話だ。またハリーの視点からの一人称だった前作に対し、続編は三人称になっているという違いがある。
 前作に続いてハリーが主役なのだが、彼は物語の半ばまで登場しない。前半ではカリフォルニア在住のニール=フェナーが遭遇した怪異がひたすら語られる。ニールにはスーザンという奥さんと、トビーという8歳の息子がおり、このトビーがミスクアマカスに狙われたことが話の発端となる。
 寝室の衣装箪笥に人の顔が浮かび上がるのを見たとトビーが訴えた。どうやら彼の同級生にも異変が生じているらしい。原因を究明して息子を救おうと奔走するニールの前にミスクアマカスの亡霊が現れ、壮大な復讐の計画を告げる。彼自身も含めた史上最強の呪術師22人が子供たちに取り憑くことによって復活し、白人に対する恨みを晴らそうというのだ。
「我には個人的な遺恨もある」
「個人的な遺恨だと?」
「我は以前にも甦ったことがある。おまえたちがニューヨークと呼んでいる島を汚したものたちに復讐しようとしたのだが、白人のいかさま師と赤人の裏切り者に妨害された。我はアースキンなる白人とシンギングロックなる赤人を見つけ出し、二人とも滅ぼすつもりだ」
 復活を目前にして気分がウキウキしているのか饒舌なミスクアマカス。宿敵であるハリーの名前をわざわざニールに教えてやるのは絶対的な自信の表れだろうが、結果的にこれが彼の失敗の原因となった。藁にもすがる思いでニールはハリーに電話し、ハリーはさっそくシンギングロックと連絡をとる。ミスクアマカスとは二度と関わり合いになりたくないと思っているが、だからといって放っておくわけにはいかないのだ。
 ミスクアマカスはまず低位の神を招喚し、その神の力を借りて高位の神を招喚するつもりだろうとシンギングロックは語った。繰り返していけば旧支配者まで辿りつけるというわけだ。ここでオサダゴワアの名前が出てくる。すなわちラヴクラフト&ダーレスの『暗黒の儀式』で言及されているツァトゥグアの息子であり、クラーク=アシュトン=スミスのロバート=バーロウ宛書簡に見えるズヴィルポググーアと同一視されている邪神だ。*1
 オサダゴワアも十分おっかないが、ミスクアマカスはさらに上位の神を招喚するつもりでいた。その神の名をKa-tua-la-huといい、明らかにクトゥルーのことだ。ズヴィルポググーア→クトゥルーという流れだとツァトゥグアが抜けていることになるのだが、ものぐさすぎて頼りにならないのだろうか。
 カリフォルニアに乗りこんでいくハリーとシンギングロック。スクールバスに乗っているトビーたちがミスクアマカスらに憑依されてしまい、旧支配者降臨の危機が迫る中で決戦が始まった。ちなみにクトゥルーはベリエッサ湖から出てくるということになっているのだが、これは実在の湖。巨大なダム穴で有名だ。*2
「やれるだけのことはやってみるが」とシンギングロックはニールにいった。「あまり期待しないでほしい」
 弱気なようだが、彼は命を捨てる覚悟でいた。ミスクアマカスだけでも手に負えないのに、ましてや相手は22人もいて多勢に無勢だ。ただのハイジャックと勘違いした警察と州兵も来ているが、ミスクアマカスの圧倒的な魔力に薙ぎ払われるばかりだった。
 シンギングロックは呪術合戦に持ちこみ、まず一人を倒した。そして相手の機先を制し、自らオサダゴワアを招喚してしまった。オサダゴワアは父親のかわいらしさに比して気色悪い見た目をしており、性格も凶悪なことで知られているが、自分を招喚してくれたものに対しては好意的なのだ。
「オサダゴワアよ! 旧支配者の命によりて、サダゴワアの禁じられたる言葉によりて、千の死と千の生によりて、お姿を顕したまえ!」
 名前を出すだけで人類の命運が左右されてしまうツァトゥグア。彼自身はただ寝ているだけなのだが、すごい神様だ。
「オサダゴワアよ、もっとも崇められたるサダゴワアの子よ、大いなる外世界より来る餓えたるものよ、この呪術師どもを捧げますぞ」
 旧支配者の力で白人に復讐しようとしていたミスクアマカスが逆に守勢に立たされることになった。やむなく彼は術を用い、オサダゴワアを退散させる。いったん去れば当分は来ず、オサダゴワアの力を使わずにクトゥルーを招喚するのはミスクアマカスといえども簡単ではないので、シンギングロックは少し時間を稼ぐことに成功した。
 絶望的な状況下で善戦していたシンギングロックだったが、とうとう力尽きてミスクアマカスに討ち取られた。その時になってハリーとニールの祈りが通じ、ネイティブアメリカンに殺された開拓者たちの霊が現れた。彼らの一斉射撃によって呪術師たちは一掃されてしまい、降臨しかけていたクトゥルーも退散する。敗北を認めたミスクアマカスは捨て台詞を残して消え去った。ハリーは煙草を吸い、天に召されたシンギングロックのことを思って涙を流すのだった。
 というわけで非常にクトゥルー神話色が濃厚な巻だった。もうちょっと旧神の印とか出してほしいと思わないでもない結末だが、生きている間は弱い人間でも霊になれば真の力を発揮するという設定は一貫しているようだ。私がこの作品を読んだのはだいぶ前のことで、当時はぼろぼろになった中古のペーパーバックを買うしかなかったのだが、現在は電書で復刊されている。値段も安い。いい時代になったものだ。

Revenge of the Manitou (English Edition)

Revenge of the Manitou (English Edition)