新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

「無貌の神」余話

 1935年7月中旬頃にラヴクラフトが書いたロバート=ブロック宛の手紙より。

シュトゥガッツェ博士という悪党のことは初耳ですが、彼と魔神ナイアーラトテップの関わりについて話を聞いてみたいです。この不吉な輩が登場する作品を読めれば幸いです――君ならold Nyarthyを公正に扱ってくれるだろうと確信しているのですけどね。

 ナイアーラトテップがNyarthyと呼ばれているのは初めて見た。ラヴクラフト公認の愛称ということになるが、読み方はニャーシーでいいのだろうか。
 シュトゥガッツェ博士はブロックの「無貌の神」の主役だが、H. P. Lovecraft: Letters to Robert Bloch and Othersの148~149ページによるとブロックはこの名前の来歴を次のように語っていたそうだ。

シュトゥガッツェという名前の出所になった架空人物の集団は――信じようと信じまいと――「野球」というカードゲームで選手として使うために作ったものです――僕の友人であるハーブ=ウィリアムズとハロルド=ガウアーが発明したゲームなんですよ。あまりにも複雑なゲームなので説明は割愛しますが、「選手」を一人ずつプレイさせてはスコアをつけていくというものです。その名前を後に「無貌の神」の主役として使ったというわけです。

 元々は野球ゲームのキャラだったそうだ。またThe Opener of the WayMysteries of the Wormのケイオシアム版に収録されている「無貌の神」ではシュトゥガッツェの名前がカーノティに変わっていると149ページに注記がある。この異同は邦訳にも影響を及ぼしており、青心社の『クトゥルー』ではカーノティ、国書刊行会の『真ク・リトル・リトル神話大系』ではシュトゥガッツェだ。
 「無貌の神」の初出はウィアードテイルズの1936年5月号で、その時はシュトゥガッツェ博士が主役だった。ブロックの生涯初の単行本となるThe Opener of the Wayが1945年にアーカムハウスから刊行され、そこで名前がカーノティに変更されたわけだ。
 一方Mysteries of the Wormは1981年にゼブラブックスから刊行されたブロックの作品集で、編者はリン=カーターだった。1993年にケイオシアムから復刊され、さらに「冥府の守護神」など数編を加えた増補版が2009年に出ている。私が持っているのは増補版のほうなのだが、そこではシュトゥガッツェになっている。ゼブラ版の中身は確認したことがないが、これもおそらくシュトゥガッツェなのだろう。だとすれば、年代順に並べると次のようになる。

版元 題名 編者 主役の名前
1945 アーカムハウス The Opener of the Way ダーレス カーノティ
1981 ゼブラ Mysteries of the Worm カーター シュトゥガッツェ
1993 ケイオシアム Mysteries of the Worm プライス カーノティ
2009 ケイオシアム Mysteries of the Worm プライス シュトゥガッツェ

 カーターがいったん元に戻したのをロバート=プライスが再び変更しており、どうにもめまぐるしい。ところでカーノティなる名前の初出はThe Opener of the Wayだというが、いったい何の意図で改変したのだろうか。もしかしたらダーレスの関与があったのかもしれないが、その辺の事情は定かでない。

Opener of the Way

Opener of the Way

  • 作者:Bloch, Robert
  • 発売日: 1976/05/13
  • メディア: マスマーケット
Letters to Robert Bloch and Others

Letters to Robert Bloch and Others

  • 作者:Lovecraft, H P
  • 発売日: 2015/07/18
  • メディア: ペーパーバック