新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ツァトゥグアの眼

 W.H.パグマイアの"Yon Baleful God"は「ツァトゥグアの眼」と呼ばれる宝石を題材にした掌編である。この宝石はパグマイアが創造したものではなく、ラヴクラフトのジェイムズ=F=モートン宛書簡が初出だ。
 物語の舞台はセスカ峡谷。語り手であるアダムのもとへ恋人がやってくる。彼は自らの片眼をくりぬき、球状にカットした宝石を眼窩にはめこんでいた。それこそは「ツァトゥグアの眼」であり、ツァトゥグアの塒に転がっている宝石のひとつなのだという。あまりにも長い間ツァトゥグアとともにあったため、神との霊的なつながりが生じた宝石であるとダニエル=ハームズはThe Cthulhu Mythos Encyclopedia で解説している。
 生贄によってツァトゥグアに力を与えなければならないと恋人はアダムに告げた。アダムは恋人の望み通りに彼の頭を石で叩きつぶし、ツァトゥグアの眼を拾い上げて見入る。宝石の向こう側では邪神が笑っているのだった。
 ツァトゥグアの眼への言及が『エイボンの書』にあるということ以外にラヴクラフト本人は何も述べていないので、宝石を義眼として使うというのはパグマイアによる創作だろう。アダムの恋人の自殺願望が宝石の影響によるものなのかは定かでないが、ご利益をもたらしてくれる類のアイテムでないことだけは確かなようだ。

Gathered Dust and Others

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