新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

アルハザードの子孫は新聞記者

 米国にフランクリン=シーライトというクトゥルー神話作家がいる。「暗恨」「知識を守るもの」を書いたリチャード=F=シーライトの息子なのだが、親子二代にわたってクトゥルー神話を書き続けるというのは珍しい。
 そのフランクリン=シーライトが書いた"The Guardian of the Pit"は、アーカム=アドバタイザーに勤めるアラン=ハスラッドという記者が主役だ。アランはアブドゥル=アルハザードの末裔ということになっている。
 このところ世の中を騒がせている連続怪死事件のことを調べるためにインスマスへ行ってほしいと彼の上司がアランにいった。ずたずたに切り刻まれた死体がもう6体もアーカム付近の海岸に漂着しているのだが、犠牲者はいずれもインスマス面だった。インスマスで何かが起こっているらしい。3年前にインスマスで怖ろしい経験をしたアランは行くのを渋るが、上司の説得に根負けしてしまう。
「やってみますよ。僕が帰ってこなかったら、弔花の送り先は知ってますよね」
 別れの水杯を交わしてから取材に行くようだ。書籍商に化けてインスマスを訪れたアランはギルマンハウスに泊まり、情報を集めるために街を歩き回る。運がいいことに、波止場で釣りをしている少年と話をすることができた。少年の身の上を聞けば、つい2カ月前にマーブルヘッドから引っ越してきたばかりだそうだ。少年の父親はガソリンスタンドを経営しているが、早くもマーブルヘッドに帰りたがっていた。
 町の人たちは黄金を探しているんだと少年はアランに教えてくれた。オーベッド=マーシュがクトゥルーの眷属と取引をして手に入れた黄金のことだろう。謎を解く鍵はインスマス沖合の悪魔の暗礁に隠されているらしい。夜になり、悪魔の暗礁に向かおうとする男を見かけたアランは別のボートに乗って追跡する。
 悪魔の暗礁に上陸したアランは、海の底へと続く穴を見つけた。穴の中に下りていくと、先ほどの男が水面に浮いている。すでに深手を負っており、助かる見込みはなかった。黄金をとろうとして深きものに襲われたのだ。アランは大慌てで逃げ出してアーカムに帰り、真実を何もかも記事にするわけにはいかないなと思うのだった。
 アランが見た深きものの正体はバーナバス=マーシュだった。かのオーベッド=マーシュの孫だ。バーナバスはもう50年も前に海に入ったのだが、それからずっと祖父の財宝を守っていたのだった……。
 死亡フラグを立てまくりながら無傷でアーカムに生還するあたり、さすがはアルハザードの末裔といいたくなるような強運だ。イハ=ントレイに住む深きものどもとインスマスの住民が断絶してしまっているところを見ると、一斉検挙の後遺症は大きいのだろう。なおバーナバス=マーシュの初出は「インスマスを覆う影」なのだが、ブライアン=ホッジの小説では彼の米国政府に捕えられて収容所に入れられたことになっている。*1