新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ラヴクラフトと喧嘩別れした作家

 ヒュー=B=ケイヴはラヴクラフトと文通していたと前回の記事で述べたが、実はケイヴもラヴクラフトと同じくロードアイランド州に住んでいた。彼は全米創作ギルドのロードアイランド支部長を務めており、ラヴクラフトに勧誘の手紙を書いたことがきっかけとなって彼と文通するようになったのだ。Cave of a Thousand Tales でケイヴ本人が当時のことを回想している。

僕は当時たくさんのパルプ雑誌に小説を書いては大いに稼いでいました。ラヴクラフトはウィアードテイルズのためにしか書かず、後はいくつかの同人誌に作品が載るだけだったので、ようやく食べていける程度の収入しかありませんでした。彼は47歳で亡くなりました。その文体は古風なものでしたが、ラヴクラフトは偉大な神話を作り上げ、怒濤のクライマックスへと読者を引きずり込んでいく恐るべき能力を有していました。
(中略)
僕はラヴクラフトから何通か手紙をもらいましたが、どれも手書きでした。僕らが手紙をやりとりしていた短い期間のことを思い出すに、僕らは互いの作品に敬意を払い、編集者に関するコメントをいくらか交わしていました。ですが、それが真の文通へと発展することはついにありませんでしたし、僕たちは同じ町に住んでいたにもかかわらず一度も対面しませんでした。

 ケイヴはラヴクラフトの享年を47としているが、実際には46歳である。ラヴクラフトからの影響が顕著なケイヴの作品としては"The Isle of Dark Magic"や「臨終の看護」があり、とりわけ前者はラヴクラフトの生前に発表されている。だがラヴクラフトとケイヴの交流はそれほど親密なものではなく、二人の別れは幸福なものではなかった。

手紙をやりとりしているうちに稿料のことが話題になりました。自分は芸術家として小説を書いているので稿料など気にかけないとか、自分にとっては稿料より芸術の方が重要であるとか、そんなことをラヴクラフトはいいました。返信で僕は警句を引用しました──ボズウェルがサミュエル=ジョンソン伝で述べたことだったかと思いますが──「金のために書こうとしないのは石頭のみ」という奴です。当時の僕は青二才の世間知らずで、ラヴクラフトよりずっと若く攻撃的でした。そしてラヴクラフトが食うや食わずの状態なのに、僕は年間5000ドルを稼いでいました。
(中略)
ラヴクラフトは僕の返事を気に入ってくれませんでした。誰か別の人に宛てた手紙で彼は僕の言葉を引用し、僕を「俗物」と呼びました。このことはスプレイグ=ディ=キャンプのラヴクラフト伝に書いてあったかと思います。この事件があってからというもの手紙のやりとりは途絶え、僕は二度と彼から手紙をもらえませんでした。

 引用した警句をケイヴはボズウェルの言葉としているが、これはサミュエル=ジョンソン自身の言葉らしい。ラヴクラフトが誰かと絶交するとは珍しいことであり、ケイヴも無念そうだ。だが彼がラヴクラフトと仲直りしようと努力すれば、また返事をもらえるようになったのではないかという気もする。ロバート=E=ハワードなどはラヴクラフトとひっきりなしに論争していたにもかかわらず、最後の最後まで親友同士だったのだ。またダーレスもラヴクラフトの寛大さを「驚異的」としている。
 もしかしたら、ラヴクラフトにとってケイヴの魅力や器量はダーレスやハワードに及ばないものだったのかもしれない。しかしケイヴもその長い人生の最後まで作家として真摯に生きた人だった。5年ほどハイチで暮らしていた間に見聞したことを基に、ヴードゥーは邪悪な宗教だという誤解を解くための本を書いたりしている。

Cave of a Thousand Tales: The Life and Times of Pulp Author Hugh B. Cave

Cave of a Thousand Tales: The Life and Times of Pulp Author Hugh B. Cave

  • 作者:Thomas, Milt
  • 発売日: 2004/06/15
  • メディア: ハードカバー