新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ラヴクラフト・サークルの格好悪い兄貴

 かっこいい連中が揃っている「ラヴクラフト・サークル」の中にあって、いかにも冴えないのがフランク=ベルナップ=ロングだ。1901年生まれの彼は年長組に属するのだが、ダーレスとかブロックといった後輩に比べると情けなさが際立っている。
「どうしてスティーヴン=キングの本が売れるのに、僕の本は売れないんだ」と晩年のロングは愚痴をこぼしていたとピーター=キャノンの回想記にあるのだが、聞いているキャノンの苦笑が眼に浮かぶようだ。中村融先生もロングの作品を「凡庸な文章で、思いつきをストレートに書いたような作品」と評しておられる(参照)。
 ピーター=ルーバーはロングのことを「アーカムハウスの常連作家で二番目にがめつい男」と呼んでいる(ちなみに一番がめつかったのはヘンリー=ラッセル=ウェイクフィールドだそうだ)。その割にロングは貧乏だった。あるいは貧乏だったからこそ小銭を稼ぐことに汲々とせざるをえなかったのかもしれない。原稿の二重売りをやらかしてダーレスに迷惑をかけたロングが詫びを入れたとき、ダーレスは怒るというより呆れ顔で「あなたの誠意を疑うものなど誰もいませんよ。それより新しい仕事をお願いしたい」と告げて彼を安心させた――という逸話が残っている(参照)。
 そんなロングだが、とにかく長生きだった。90過ぎまで生きた彼はラヴクラフトの思い出を語り続け、たまには他の作家の話をすることもあった。ダーレスに対する批判が隆盛を極めていた1980年頃、"The Contributions of August Derleth to the Supernatural Horror Story as Author, Critic, Anthologist and Publisher"と題する文章でロングは次のように述べている。

私にいわせれば、そんな批判には何の意味もない。批判する連中はダーレスのことを完全に誤解しているのだ。

ラヴクラフトの伝説を継承するのに一番ふさわしいのは誰かと訊かれたら、ダーレスに決まっていると躊躇なく答えてやる。

 いざというときに弟分を庇うのは兄貴のつとめでしょ――格好悪い男が見せた精一杯のかっこよさ。私はロングが好きだ。