新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ラヴクラフト・サークルの師範代

 森瀬繚さん(id:Molice)とtyokorataさん(id:tyokorata)のやりとり。


 その組み合わせならダーレス批判が簡単にできるが、同時に「これだからニワカは……」と嘲笑されかねないという諸刃の剣。宇宙的恐怖がわかっていないとはどういうことなのか、ラヴクラフト発言の真意を探ってみることにしよう。
 発言の出所は1930年10月17日付のC.A.スミス宛書簡だ。この書簡において、ラヴクラフトは著名な作家や友人たちを宇宙的感覚の有無で分類している。

宇宙的感覚あり 宇宙的感覚なし
エドガー=アラン=ポオ アンブローズ=ビアス
ダンセイニ卿 M.R.ジェイムズ
アルジャーノン=ブラックウッド アーサー=マッケン
C.A.スミス オーガスト=ダーレス
ドナルド=ワンドレイ サミュエル=ラヴマン
バーナード=オースティン=ドワイヤー フランク=ベルナップ=ロング

 ビアス・ジェイムズ・マッケンと、宇宙的感覚がないと見なされた側にも錚々たる顔ぶれが揃っている。とりわけマッケンは「文学における超自然の恐怖」で絶賛されたのみならず、ラヴクラフトがもっとも愛する怪奇小説十選の中に彼の作品が三つも挙げられたほどだ。*1またビアスはスミスにとって師匠の師匠に当たる恩人だった。宇宙的恐怖を理解するかどうかは純粋に指向の問題であり、作家としての能力とは基本的に関係ない。
 それではラヴクラフトはダーレスの能力をどう評価していたのか。その話をする前にロバート=ブロックに登場してもらわなければならない。ブロックの「星から訪れたもの」は、作中で自分を殺害する許可をラヴクラフトがブロックに与えたという微笑ましい逸話で知られるが、この作品がウィアードテイルズに掲載されたときラヴクラフトは「価値がない」と切り捨てている。*2
 まるで掌を返したかのようだが、ラヴクラフトはブロックが憎かったわけではない。逆にかわいかったからこそ、彼の未熟さを冷徹に指摘しなければならなかったのだろう。まだ若く成長途中の作家であるブロックを伸ばすためにラヴクラフトが思いついたのは、良い指導者をつけることだった。その指導者として指名されたのがダーレスである。*3
 ラヴクラフトがダーレスに指導を任せた友人はブロックだけではなく、ダーレスはロバート=バーロウやアルフレッド=ガルピンの面倒も見ている。いずれもラヴクラフトの親友であり、バーロウは彼から遺著管理者に指名されたほど愛されていた。ラヴクラフトにとって、ダーレスは大事な友達を託せるほど頼もしい存在だったのだ。

*1:「白い粉薬」「白魔」「黒い石印」の3編。

*2:アフリカ死霊戦線 - 新・凡々ブログ

*3:ちなみにダーレスがブロックに与えた助言は「ラヴクラフトさんの猿まねをするな。実力が身につくまでクトゥルー神話は止めておけ」というものだった。