ラヴクラフトとヒトラー
ラヴクラフトはヒトラーの『我が闘争』を読んで感激したという話がある。モーリス=レヴィのLovecraft: A Study in the Fantastic によれば、これはソニア=グリーンの証言が出所だそうだ。だが『我が闘争』の英訳版が刊行されたのはラヴクラフトがグリーンと最後に会ってから1年も後のことなのだから、彼が『我が闘争』を読んだことがグリーンにわかったはずがないとスプレイグ=ディ=キャンプは指摘している。実際ラヴクラフトとグリーンは別れた後はほぼ没交渉で、ラヴクラフトが死んだことがグリーンに伝わったのは1945年になってからだった。
ディ=キャンプという人にはいろいろと困ったところもあるのだが、S.T.ヨシもこの指摘の的確さは認めているようで、ただグリーンはラヴクラフトの知り合いから間接的に情報を得ていたのかもしれないと述べるにとどめている。ラヴクラフト本人の言葉が証拠として残っているわけではなく、彼の元奥さんが伝聞で知った話ならば信憑性も自ずと異なってくるのではないだろうか。
なおロバート=ブロックはグリーンのことを信用していなかったらしく、彼女の影響を受けて偏向したラヴクラフト論など闇に葬ってしまうべきだとダーレスに献策したことがある(参照)。おそらくグリーンがラヴクラフトのユダヤ人嫌いを過度に喧伝していると感じたのだろう。
Lovecraft: A Study in the Fantastic
- 作者:Levy, Maurice,Joshi, S. T.
- 発売日: 1988/07/01
- メディア: ペーパーバック