新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

第二世代

 アルジャーノン=ブラックウッドに"The Second Generation"という短編がある。初出は1912年7月6日付のウェストミンスターガゼットで、その後Ten Minute Storiesに収録された。The Best Psychic Storiesに再録されたものがプロジェクト=グーテンベルクで無償公開されている。
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 主人公はスミスという30歳の男性。辺境の地の農場や鉱山で働き、ひとかどの地位をようやく得て10年ぶりに帰国したところだ。かつて慕っていた女性に電報を打ち、4時半に来てほしいという返事をもらったスミスは彼女の屋敷を訪問したものの、玄関先で気後れしていた。
 彼女は他の男性と結婚したが、現在では死別していた。結婚した時点で相手の男には成人済の息子がいたとあるので、相当な年齢差があったらしい。スミスも今では十分な稼ぎがあるのだが、彼の生涯所得ですら彼女の年収に及ばないようだ。
 意を決して呼び鈴を鳴らすと執事が出てきて、スミスを応接間に案内した。お茶が用意してあり、女主人の準備ができるまで独りでおくつろぎいただきたいと言われる。決して非礼ではないが、知人に対するもてなしとしては奇妙だった。
 応接間に入ってきた彼女は昔とまったく変わっておらず、年をとっていないかのようだった。「今でもここにお住まいなのですね?」とスミスは訊ねた。
「ここが私の居場所なのです。あなたが私に会いに来てくれた場所なのですから。私はあなたをずっと待っていましたし、今でも待っています。この家を離れることはありません――あなたが変わってしまわない限り」
「でも、あなたを束縛するものなどないでしょう」と彼は叫んだ。
「あなたは自由ではないのですよ、私が自由であるようには――今のところは」
 執事が入室して、女主人の支度が調いましたと告げた。今まで話をしていたはずの彼女は幻で、スミスは一人きりだったのだ。書類を2階までお持ちいただけますかといわれたスミスは愕然とする。誰か別の人物、おそらく弁護士か建築業者と間違えられていたのだ。
 スミスは床に頽れた。執事は気付けのブランデーを勧め、医者を呼びましょうかといってくれたが、彼はその厚意を断る。後日また伺いますとだけいって屋敷を辞去するスミスは、もはや彼女が生身ではここに住んでいないことを理解していた。彼が立ち去る瞬間、何か御無礼なことでもありましたかと問いたげな表情で階段の上に佇む若い女性がいたのだが、その人は屋敷を相続した息子の妻だったのだから……。
 憧れの女性はすでに故人となっており、その霊だけが彼を待ち続けていたという切ない結末。「第二世代」という題名の残酷な意味が最後に明かされている。なお、この話もTales of Mysteryシリーズの一作としてテレビドラマ化されたそうだが、その映像が残っていないことが惜しまれる。
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 17歳のダーレスが"Symphony"なる作品の原稿を送って意見を求めたとき、ラヴクラフトは1926年12月16日付の手紙で「たいへん良いと思います――ブラックウッドの"The Second Generation"を思わせるところが多いですね」と述べているので、読んだことがあったようだ。ダーレスを褒めるとき引き合いに出したということは評価も高かったのだろう。"Symphony"がどう似通っているのか気になるので読み比べたいのだが、あいにく未発表作品だという。