ロバート=E=ハワードの作品では同じモチーフが繰り返し使われ、そのため物語が相互に緩やかな関連性を持っている。その関連性に着目して彼の諸作品をまとめれば、通読したとき一個の巨大な神話世界が見えるんじゃないか――などということを考えてみた。ラインナップは以下の通り、一般にクトゥルー神話と見なされる作品もあれば、そうでないものも混じっている。
不死鳥の剣
御存じコナンのデビュー作。この話を冒頭に置く理由は後述。
影の王国
アトランティスの時代、大王カルと最強戦士ブルールが蛇人間の陰謀に立ち向かう。
闇の帝王
時空を超えてカルとピクトの王ブラン=マク=モーンが邂逅。ブランはブルールの子孫という設定。
大地の妖蛆
強大なローマと戦うために大地の妖蛆と取引するブラン。
The Dark Man
時は11世紀。幼馴染のモイラをさらわれ、ケルトの戦士ブラック=ターロウは単身バイキングに戦いを挑む。旅の途中でブランの像を発見したターロウは彼の霊の加護を得ることになる(参照)。
The Gods of Bal-Sagoth
"The Dark Man"の続き。ターロウとサクソンの戦士アセルスタンが漂着した島バル=サゴスでは、ゴル=ゴロスという神が崇拝されていた(参照)。
灰色の神が通る
ケルトとバイキングが激突したクロンターフの戦いが描かれる。脇役としてターロウが出てくるので"The Dark Man"の前日談ということになる。戦いはケルト側の勝利に終わり、バイキングの神オーディンは自分の時代の終焉を認めて去る。
鬼神の石塚
「灰色の神が通る」の後日談。時は現代、眠りについていたオーディンが邪霊となって復活するが、聖ブレンダンの十字架によって打ち破られる。オーディンの扱いがひどくないかとラヴクラフトが苦情をいったという曰く付きの作品(参照)。
The Shadow of the Vulture
騎士ゴットフリート=フォン=カルムバッハは剛勇無双の武人だが、普段はまるっきりダメ人間。オスマン帝国の大軍に包囲されたウィーンで彼が出会ったのは美貌の女戦士レッドソニアだった……。ハワード自身も気に入っていたという一編だが、「黒の碑」と同様にスレイマン大帝の名が出てくる。こちらを表の話とすれば、「黒の碑」は裏に当たるだろう(参照)。
暗黒の民
ゴル=ゴロスやブランへの言及あり。
われ埋葬にあたわず
「暗黒の民」で脇役を務めたキロワン教授が再び登場。
The Haunter of the Ring
セトの指輪を持つ敵とキロワン教授が対決。「われ埋葬にあたわず」ではジョン=グリムランの怖ろしい末路を見届けるだけだったキロワンだが、この作品では邪悪な魔術師を鮮やかな返し技で撃破している。またセトの指輪が出てくることにより、「不死鳥の剣」の後日談にもなっている(参照)。
「不死鳥の剣」で始まった物語が"The Haunter of the Ring"で円環となって締めくくられるという趣向だが、いかがだろうか。並べて全体を見渡すと、神話というよりは伝奇と呼んだほうがふさわしいかもしれない。それにしても、未訳のままになっている作品が意外と多いのが残念だ。