なぜ魔女ケザイアは磔刑像を怖れたのか?
ダーレスはラヴクラフトの「魔女の家の夢」に対して辛口の評価だったようで、彼から手紙をもらったラヴクラフトがいじけたことがある(参照)。だが実のところ、この件に関しては後世の研究家たちもおおむねダーレスに同調している。
ドナルド=R=バールスン「ラヴクラフト後期の作品としては、水準をいくらか下回る」
ピーター=キャノン「ラヴクラフト本人の名前で発表された後期作品の中では、もっとも貧弱」
スティーヴン=J=マリコンダ「華麗なる失敗作――その息詰まる想念は幻想文学においてもっとも独創的なもののひとつだが、むらのある実践が追いついていない」
散々な言われようだ。S.T.ヨシもラヴクラフト伝で「魔女の家の夢」の問題点を列挙しているが、そのひとつが「ラヴクラフトは無神論者だったのに、なぜケザイア=メーソンは磔刑像を見ただけで怯えたのか?」というもの。これに対し、スコット=コナーズがLovecraft Annual の6号(2012年)で考察している。
ケザイアはナイアーラトテップに仕えていたが、自分ではサタンを崇めているつもりだったのではないかとコナーズは推測している。本人の意識は伝統的な悪魔崇拝の枠内にとどまっており、それゆえ磔刑像は魔女を傷つけるものであると思いこんでいた。ケザイアが磔刑像を見て恐れおののいたのは、磔刑像が実際に何らかの威力を有していたからではなく、威力があると彼女が信じていたからだ――憶測に頼っているきらいはあるかもしれないが、これがもっとも説得力のある仮説であるように思われる。
- 作者: Author S T Joshi
- 出版社/メーカー: Hippocampus Press
- 発売日: 2012/08/20
- メディア: ペーパーバック
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