ラヴクラフトが結婚した理由

　１９４９年、ジェイムズ＝ウォーレン＝トーマスというブラウン大学の院生がラヴクラフトをテーマにして修士論文を書いた。その論文を彼は書籍として出版しようとしたのだが、実現しなかった。前にもした話だが（参照）、ラヴクラフトの人物像をゆがめているとダーレスが判断したためである。相談を受けたドナルド＝ワンドレイとロバート＝バーロウはダーレスに同意し、偏見に満ちた論文など葬り去るべきだとロバート＝ブロックも発言したため、ダーレスはトーマスに出版の差し止めを通告したとドロシー＝Ｍ＝グローブ＝リタースキーのダーレス伝にある。
　アーカムハウス初期の穏やかならざる逸話である。トーマスの論文がどのようなものなのか私は読んだことがないのだが、スプレイグ＝ディ＝キャンプのラヴクラフト伝がその一端を明らかにしていた。

なぜラヴクラフトはソニア＝グリーンと結婚したのか？　家事をしてくれる人と安定収入が目当てだったのだとジェイムズ＝ウォーレン＝トーマスは推測している。

　なるほど、これはひどい。ディ＝キャンプがトーマスの見解を正しく伝えているならば、そして他の記述もこんな調子だったのだとすれば、ブロックが怒るのも無理はない。論文の出版を認めた上で反論するのが本来あるべき姿だろうが、いったんデマが広まってしまったら取り返しがつかないとブロックは懸念したのだろう。
　ちなみに「ラヴクラフトとソニアが結婚したのは、二人が愛し合っていたからだろう」とディ＝キャンプ自身は述べている。これはきれいなディ＝キャンプだ。

LOVECRAFT: A BIOGRAPHY