新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

彼が医者をやめた理由

 カール=エドワード=ワグナーは精神科医から作家に転身したという経歴の持ち主だ。医者としては落伍したのだといわれることが多かったのだが、ワグナーと親交のあったジョン=メイヤーが真相を語っている。
East of Eden
(リンク先のページは音楽が流れるので御注意いただきたい。エテルニタスというドイツのシンフォニックメタルバンドの曲だそうだ)
 メイヤーによると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校におけるワグナーの成績は優秀だった。反抗的な態度のせいで停学処分になったりもしたが、医師免許と博士号をきちんと取得している。名門として知られるチャペルヒルでも、当時ワグナーほど知能の高い学生は他にいなかったという逸話があるほどだ。
 しかし患者の人権を無視する精神病院の実態を見たワグナーは心を痛め、医療の場から去ることにした。彼は剛毅で非情な男を気取ろうとしていたが、本当は心優しく正義感の強い人間だったとメイヤーは述べている。
 「ラヴクラフト・サークル」の人々の生き様を見ていて私が思うのは、きわめて高い能力を持ちながら不器用に生きた者が多いということだ。俗世におもねれば楽に暮らせたかもしれないのに、仮初の幸せに甘んじることを潔しとしなかったのだろう。それゆえワグナーには「最後のラヴクラフト・サークル」とでも呼びたくなるような気概が感じられる。

闇がつむぐあまたの影 (創元推理文庫―ケイン・サーガ)

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