新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

エリカ=ツァンの沈黙

ジェイムズ=ウェイドのクトゥルー神話小説で邦訳されているのは「深きものども」*1だけだが、彼は他にもいくつか神話作品を書いており、その中でも特に優れていると私が思うのは「エリカ=ツァンの沈黙」(The Silence of Erika Zann)だ。サンフランシスコ…

我はクトゥルー

前回に引き続き、ニール=ゲイマンの話である。ゲイマンには「我はクトゥルー」と題する掌編があり、気前のいいことに公式サイトで無償公開してくれている。 Neil Gaiman | Cool Stuff | Short Stories | I Cthulhu 題名の通り、大いなるクトゥルーを主人公…

ショゴスビール

cthulhu.hatenablog.jp これがショゴス丼か! ショゴスビールというものもあるが、こちらはニール=ゲイマンの小説に出てくる架空の飲み物だ。1998年に発表された"Shoggoth's Old Peculiar"がその小説である。題名になっているShoggoth's Old Peculiarは…

フォートとバーロウ

ラヴクラフトがロバート=バーロウに宛てて書いた1932年3月21日付の手紙*1ではチャールズ=フォートのことが話題になっている。 チャールズ=フォートから手紙をもらったとのこと、おめでとうございます! 彼はまことに偏った人物であり、バランス感…

裏切者にあらず

孔明いわく「おめぇの席ねーから!」 - 思いて学ばざれば なるほど、こりゃ裏切りたくもなるわな。というか、結局のところ魏延って裏切ってないんじゃねえの? おまえは何を今更いっているのだ、「不便背叛」(魏延は謀反したわけではないのだ)と陳寿も魏延…

永劫への門

ティンダロスの猟犬が登場する作品を、フランク=ベルナップ=ロングは「ティンダロスの猟犬」以外にもうひとつ書いている。「永劫への門」(Gateway to Forever)という短編で、『クトゥルーの窖』(Crypt of Cthulhu)の25号が初出だ。その粗筋を以下に…

ウィンフィールド・フィリップス

またしてもエンサイクロペディア・クトゥルフの話で恐縮だが、ウィンフィールド=フィリップスの項を引いてみる。 その後1929年に彼はラファムの元を去り、死んだおじの地所があったハイラム・ストークリイに住むようになった。彼はそこで1年後に死んだ…

「奥津城」映画化

2年ほど前のことになるが、ラヴクラフトの「奥津城」が映画化されたそうだ。DVDが発売されているが、日本のアマゾンでは取り扱っていないので米アマゾンの方にリンクを貼っておく。 奇々怪々なる恐怖小説の巨匠H.P.ラヴクラフトの作品を原作としてい…

「妖術師の帰還」本来の結末

C.A.スミスは原稿を書き直すのを厭わない人だったので、ひとつの作品に複数の版が存在することが珍しくない。「妖術師の帰還」もその一例で、実際に発表されたものと初稿では結末がやや異なっている。本来の結末をボイド=ピアソン氏のサイトで読むこと…

怒っていなかったダーレス

私の小説はひとつの原理的な伝承もしくは伝説に基づいている。この世界にはかつて他の種族が住んでいたが、黒魔術を用いたために地歩を失って追放された。しかし彼らは外世界で生きながらえており、この地球に対する支配権を回復する準備を整えているのだ。 …

物語の終わり

フランスのアヴェロワーニュ地方を舞台にした短編をC.A.スミスは全部で11書いており、そのうち八つまでが邦訳されている。未訳のままになっている3編のうち、ひとつは「物語の終わり」(The End of the Story)である。原文はA Rendezvous in Averoig…

ドリームランド

ラヴクラフトの後期の作品の多くが「ドリームランド」を舞台にしているといわれることに注意。それらには「サルナスの滅亡」のようなドリームランドの遠い過去を設定にしたものもある。何人かの作家、特にラムレイは覚醒の世界での初期作品に出てくる場所を…

ラヴクラフトの天文観察指南

ラヴクラフトがダーレスに宛てて書いた1936年6月20日付の手紙より。 星座のことですが──星図を使って探したのにヴェガが見つからなかったというのは、まことに奇妙なことです。6月上旬の夜空を観察すれば、ヴェガは高いところにあるはずです。もしか…

オークディーンの恐怖

ブライアン=ラムレイの"The Horror at Oakdeene"は、1977年にアーカムハウスから刊行されたHorror at Oakdeene and Othersのために書き下ろされた短編だ。1930年代の英国を舞台としており、邪神イブ=ツトゥルについて詳しく語られているという点で…

サドクアの猫

C.A.スミスに宛てて書いた1934年2月11日付の手紙*1でラヴクラフトは「サドクアの猫」に言及している。 あなたが仲良しの猫たちの姿を描写してくれたものですから、私はすっかり魅了されてしまいました。漆黒で沈鬱なシマエサと、無骨で好戦的なタ…

ハオン=ドルの館

「七つの呪い」に端役として登場した大魔道士ハオン=ドルを別の作品で活躍させようという計画をC.A.スミスは立てていた。1933年10月の中旬に書いたラヴクラフト宛の手紙でスミスはこう述べている。 アスタウンディングとウィアードテイルズがどち…

ラヴクラフト先生の英語教室

オーガスト=ダーレスの「シェラトン様式の鏡」(The Sheraton Mirror)は米国中西部の田園に潜む悪意と狂気を描き、なかなか見事な作品なのだが、"I already overheard you talking days ago."と登場人物の一人が言うのをラヴクラフトが「不正確な用法」と…

ラヴクラフトの飲酒反対小説

ラヴクラフトに"Old Bugs"という掌編がある。1919年に執筆されたといわれており、まだ邦訳はない。 hplovecraft.com 飲酒の害を説いた作品なのだが、この題名は何と訳したものか。とりあえず粗筋を結末まで紹介してみることにする。 禁酒法が廃止されて…

「闇にささやくもの」もうひとつの結末

クリスマスの晩にラヴクラフトがニューヨークへやってきて、「闇にささやくもの」を朗読してくれたときのことをフランク=ベルナップ=ロングが回想記*1で語っている。 「闇にささやくもの」── ハワードはゆっくりと読み進んでいった。言葉を区切っては強調…

カパブランカ対ダンセイニ

1929年4月12日、ダンセイニ卿はキューバの大棋士ホセ=ラウル=カパブランカとロンドンでチェスの対局を行い、引き分けた。その棋譜はネット上で公開されている。 www.chessgames.com 白がカパブランカ、黒がダンセイニだ。この対局のことをダンセイ…

缶詰工場の青年

若い頃のオーガスト=ダーレスは缶詰工場で働きながら親友のマーク=スコラーと一緒にパルプ小説を書いていた。ダーレスは当時のことをWalden West で回想している。Walden West (North Coast Books)作者: August William Derleth出版社/メーカー: Univ of W…

5年ごとの大祓

「アタマウスの遺言」の大瀧啓裕訳*1を読んで気になったことがある。 しかれどもコモリオムを放棄した原因については、たがいにあいいれぬ語りぐさ、思いちがえた法外な妄断あまたあるがため、敬意はらわれたる齢の功を重ねたわしが、5年ごとの大祓に11度…

我が名は暗黒

「我が名は暗黒」(Darkness, My Name Is)はエディ=C=バーティンのクトゥルー神話短編である。エドワード=P=バーグランドが編纂したアンソロジーThe Disciples of Cthulhu を初出とし、旧支配者シアエガを誕生させたことで知られるが、発表されてから…

黒い鷹の物語

『ウィスコンシン川 千の島の河』に登場する重要人物の一人がブラックホークだ。彼は北米中西部に住むソーク族の長であり、白人に土地と生活の手段を奪われたソーク族が1832年に起こした戦の指導者だった。当時の状況について、ダーレスは次のように述べ…

ウィスコンシン川 千の島の河

今日がオーガスト=ダーレスの命日であることに因み、彼の著作をひとつ紹介させていただく。The Wisconsin: River of a Thousand Isles作者: August William Derleth出版社/メーカー: Univ of Wisconsin Pr発売日: 1985/10/01メディア: ペーパーバック購入: …

従兄弟同士

バーロウ、ロバート・H HPLの遠縁のいとこで、もっとも親しく交際した友人の一人。「超時間の影」や「狂気山脈」などのタイプ打ちを担当し、HPLの死後はその原稿管理にあたった。 (ラヴクラフト・シンドローム―史上最強のラヴクラフト&クトゥルー読…

アーミティッジ博士は館長か

昨日の話の続き。 ヘンリー=アーミティッジ博士はミスカトニック大学図書館の館長だったのだろうか、それとも単なる司書だったのだろうか? アーミティッジ博士は教授なのかという問題に比べると、こちらは少々ややこしい。教授問題は「ラヴクラフトはアー…

アーミティッジ博士は教授なのか

ラヴクラフトの「ダニッチの怪」に登場するヘンリー=アーミティッジ博士を「アーミティッジ教授」と呼んでいる人をしばしば見かけるが、これは正しいのか。というのも、ラヴクラフトの作品においてアーミティッジ博士が「教授」と呼ばれたことは一度もない…