新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

「妖術師の帰還」本来の結末

 C.A.スミスは原稿を書き直すのを厭わない人だったので、ひとつの作品に複数の版が存在することが珍しくない。「妖術師の帰還」もその一例で、実際に発表されたものと初稿では結末がやや異なっている。本来の結末をボイド=ピアソン氏のサイトで読むことができる。

 敷居の向こうで自分を待ち受けているものを私は忌まわしくも予感していたらしい。だが、現実は地獄のもっとも非道な行為ですら顔色をなくすようなものだった。カーンビイは──あるいはカーンビイだったものの残骸は──床の上に横たわっていた。そして彼の上には信じがたいものが屈み込んでいた──頭部のない裸の男だ。すでに腐敗が始まっており、青ずんでいた。そして土塊が点々とこびりついていた。手首と肘と肩に、膝と踵と腰に、赤い縫合線があった。常人にはない意志の力により、何らかの地獄めいた方法でばらばらの肉体がつなぎ合わされた跡だ。そのものは血まみれの外科用のこぎりを右手に握りしめていた。そして、その作業が完了したところなのを私は目撃した……。
 どうやら私は考えられるあらゆる恐怖の絶頂を目の当たりにしていたようだ。だが、そのものが犠牲者の残骸の上に禍々しい道具を振りかざしながら跪いている最中に、戸棚から激しい物音がした。まるで何かが戸にぶつかっているかのようだった。施錠が不完全だったらしく、戸が勢いよく開いた。そして人間の頭が転がり出てきて床に落ちた。頭は転がり、かつてジョン=カーンビイだった肉塊の山と向かい合って止まった。頭も胴体と同様に腐敗が始まっていたが、その双眸は猛烈な憎悪を漲らせていた。腐敗していたとはいえ、その顔立ちはジョン=カーンビイに瓜二つであり、彼の双子の兄弟に相違なかった。
 私は恐怖の限界を超えていた。その時の出来事がなかったら再び身動きできたとは思えない。作業の完了と共に活力や結合力が離れていったかのように、頭部のない死体は床に崩れ落ち、ばらばらになって散乱した。あの恐るべき頭は眼から生気が失われた。腐敗した肉塊の山が、もうひとつの生々しい肉塊の山と並んで存在しているばかりだった。
 呪縛が解けた。何かが部屋から退いていくのを私は感じた──私を虜にしていた圧倒的な意志の力は去った。それがヘルマン=カーンビイの亡骸を解放するのと同時に、私も解放されたのだ。私は自由の身になった。私はその悪夢の部屋から逃れ、無明の館を一目散に駆けて、戸外の暗闇へと飛び出していった。

The Return of the Sorcerer (Variant Conclusion) by Clark Ashton Smith

 なかなか凄惨だ。一般に流布している版では書き方がずっと控えめになっているが、これはスミスがラヴクラフトの提案を受け入れた結果だという。