新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ショゴスビール

cthulhu.hatenablog.jp
 これがショゴス丼か!
 ショゴスビールというものもあるが、こちらはニール=ゲイマンの小説に出てくる架空の飲み物だ。1998年に発表された"Shoggoth's Old Peculiar"がその小説である。題名になっているShoggoth's Old Peculiarは、Old Peculiarという実在するビールの銘柄をもじったもので、日本語に訳すならば「ショゴスビール」だろうか。以下に"Shoggoth's Old Peculiar"の粗筋を記すが、例によって物語の結末を明かしているので用心されたい。
 ベンジャミン=ラシターというテキサス出身の米国人が英国の沿岸地方を徒歩で旅行しようとし、いいかげんな旅行案内を信用したばかりに散々な目に遭っているところから物語は始まる。おいおい、英国の海岸沿いには宿屋がたくさんあるなんて書いてあるけど、シーズンオフにはみんな閉まっているじゃないか──米国在住の英国人ゲイマンならではの出だしといえよう。
 そんな感じで5日間も旅を続けたベンはインスマスに辿り着く。ラヴクラフトの作品でも当初インスマスは英国にあることになっていたので、読者はさほど違和感を抱かないだろう。ベンは裏寂れたパブで食事をとるが、そこで出会った二人組は「米国にも同じ名前の町があるんだけど、ここに因んで名づけられたんだと思うね」という。このとき二人組とベンが飲むのが「ショゴスビール」だ。
 セスそしてウィルフと名乗る二人組は妙にカエルっぽい容貌で、ベンは彼らからラヴクラフトの文学の話を延々と聞かされることになる。「ラヴクラフトはeldritchという言葉をやたらと使うんだけど、この単語の意味は……」といった具合だ。やがてセスとウィルフは「俺たちはクトゥルーの侍者なんだけど、今はそんなに忙しくないよ」などと言い出す。二人はベンに町を案内し、ベンは海岸でお約束のものを目撃する羽目になるのだった。
 ベンが気づくと、荒涼とした丘陵の斜面で寝ていた。歩いて最寄のガソリンスタンドに辿り着いたベンは、インスマスなんて町は存在しないと言われる。ベンはすぐさま米国に引き返し、海岸から遠く離れた場所にいることは彼を安心させてくれた。後にベンはさらに内陸のネブラスカに引っ越したのだった……。ユーモアと薄気味悪さが絶妙に混ざり合った作品だ。1999年度の世界幻想文学大賞候補作となり、Acolytes of Cthulhuに収録された。

Acolytes of Cthulhu (English Edition)

Acolytes of Cthulhu (English Edition)