『ウィスコンシン川 千の島の河』に登場する重要人物の一人がブラックホークだ。彼は北米中西部に住むソーク族の長であり、白人に土地と生活の手段を奪われたソーク族が1832年に起こした戦の指導者だった。当時の状況について、ダーレスは次のように述べている。
1804年の協定の卑劣さと来たら茶番もいいところだった──年間1000ドルという雀の涙ほどの補償金と引き替えに、北米大陸の真ん中にある5000万エーカー(20万平方キロメートル)以上の土地を白人に引き渡すよう政府はソーク族とフォックス族に強要したのだ。
米国政府がソーク族から取り上げた土地には、不法占拠者(所有者のいない新開拓地に定住して所有権を得ようとする者)がやがて入り込んできた。彼らは先住民族の村を荒らし回り、ソーク族の霊場が破壊されるという事件が1830年に起きる。墓地であることが明らかな場所を鋤き返すという狼藉に憤慨したブラックホークは不法占拠者たちに退去を要求した。すると彼らは州知事のところへ行き、インディアンが「絶滅戦争」を始めたと訴えたという。
この報せに驚いた知事は軍隊を派遣し、ソーク族を彼らの村から追い出した。ソーク族がやむを得ず避難した土地では作物が育たず、彼らは飢えに苦しむことになった。すでに六十代の半ばにさしかかっていたブラックホークはついに蜂起を決意する。1832年のことだった。
おかしな話に聞こえるかもしれないが、耐え続けたソーク族がついに意を決して出陣していく場面は秩父事件を連想させ、ダーレスの本を読みながら私は映画『草の乱』のことを思い出していた。
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ウィスコンシン川の西岸に到達すると、ソーク族の集団は二手に分かれた。老人や女性・子供がいるために戦士たちの進軍が著しく遅れていることを知ったブラックホークは、大きな筏を作るように命じ、友好的なウィネバゴ族からカヌーを手に入れて、ウィスコンシン川を下ることを望んだものたちを乗せた。非戦闘員であることが明らかな集団なら妨害されずにミシシッピ川を渡らせてもらえるのではないかとソーク族は期待したのである。不幸なことに、白人の人間性はまたしても過大評価されていた。ソーク族が二手に分かれたことに気づいた民兵の斥候が、プレーリー=デュ=シエンにいたジョゼフ=ストリート将軍に報告した。フォート=クロフォードから派遣されてきた正規兵による少人数の支隊を率いて、この集団を『迎撃』するようストリート将軍はライトナー中尉に指令を出した。ライトナー中尉の判断では、迎撃というのはソーク族の非戦闘員に砲火を浴びせることだった。
その後ブラックホークは和平を目指して工作するが、白旗を掲げたソーク族を待っていたものも銃弾の雨だった。とうとうブラックホークは囚われの身となり、白人たちに対して演説を行う。
私は我が畑と我が人民の故郷を愛していた。私が戦ったのは、それらのためである。そのことを知り、忘れるな。私が死んだ後も、この戦の真実を曲げてはならぬ。戦は終わった。戦士たちは我が周りで斃れ、私は己の災厄を目の当たりにした。太陽は朝には我らの上に燦然と昇り、夜には暗雲の中に沈んで火の玉のようだった。これがブラックホークの上に輝く最後の太陽となる。彼は今や白人の虜囚である。しかし彼は責苦に耐え抜ける。彼は死を怖れぬ。彼は臆病者ではない。ブラックホークはソーク族なのだ。インディアンの恥となるようなことを彼は何一つしなかった。彼は白人に立ち向かって戦った。白人たちが次々とやってきては我らを謀り、我らの土地を奪ったからだ。我らが戦を起こした理由をあなた方は知っている──その理由はすべての白人が知っていよう──戦の責任は彼らの側にあるからだ。白人はインディアンを蔑み、その故郷から追い出した。されどインディアンは詐欺などせぬ。白人はインディアンの悪口をいい、悪意をこめてインディアンを見る。だがインディアンは嘘をつかぬ。インディアンは盗みなど働かぬ。
ブラックホーク戦争について物語るダーレスの文章は淡々としているが、「決して折れぬインディアンの心」に彼が寄せていた深い共感を伝えてくれる。