新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ドリームランド

ラヴクラフトの後期の作品の多くが「ドリームランド」を舞台にしているといわれることに注意。それらには「サルナスの滅亡」のようなドリームランドの遠い過去を設定にしたものもある。何人かの作家、特にラムレイは覚醒の世界での初期作品に出てくる場所をドリームランドに置いている。
『エンサイクロペディア・クトゥルフ』189ページ

 ラヴクラフトに詳しい方なら、一読して違和感を覚えることだろう。幻夢境(ドリームランド)を舞台としているのはラヴクラフトの「後期の作品」ではなく「初期の作品」であるからだ。原書ではどう書かれているのかを念のために確認してみた。原書をお貸しくださったうしとらさんに感謝いたします。

It should be noted that many of Lovecraft's tales later said to be "Dreamlands" stories, including "The Doom That Came to Sarnath", were actually originally set in the distant past and then incorporated into the Dreamlands later. Some authors, especially Lumlay, have placed locations from these earlier stories in the waking world.

 これを私が訳すとすれば、次のようになる。
「『サルナスを見舞った災厄』など『幻夢境』の物語であると後にいわれるようになったラヴクラフト作品の多くは実のところ元々は古代を舞台にしており、後から幻夢境へ組み込まれていったのだということに留意すべきである。こういった初期作品に出てくる土地が現世にあると設定した作家もおり、とりわけラムレイがそうである」
 つまり、幻夢境の地名だと一般に思われているものも元々は現世の地名だった場合があるのだということにダニエル=ハームズは注意を促しているのだ。一箇所で躓いたばかりに、それ以降の訳文が全部おかしくなってしまう典型例といえるだろう。翻訳の怖さを思い知らされる。

エンサイクロペディア・クトゥルフ

エンサイクロペディア・クトゥルフ

The Encyclopedia Cthulhiana: A Guide to Lovecraftian Horror (Call of Cthulhu Fiction)

The Encyclopedia Cthulhiana: A Guide to Lovecraftian Horror (Call of Cthulhu Fiction)

2010年1月15日追記

 id:SerpentiNagaさんのTwitterから。

 いくら何でも「後期」は変だ。せめて初期とすべきところだが、これは『エンサイクロペディア・クトゥルフ』の誤訳に引きずられたということなのだろうか?