ティンダロスの猟犬が登場する作品を、フランク=ベルナップ=ロングは「ティンダロスの猟犬」以外にもうひとつ書いている。「永劫への門」(Gateway to Forever)という短編で、『クトゥルーの窖』(Crypt of Cthulhu)の25号が初出だ。その粗筋を以下に記す。物語の核心および結末に触れているので御注意いただきたい。
「永劫への門」の主人公はトーマス=グランヴィルという学者だ。人間の意識の拡張というテーマに取り組んでいる彼は孤独に耐えかねてバーに出かけ、そこで一人の若い女性と出会って意気投合する。彼女はグランヴィルを自分の家へ連れて行き、自分の叔父や自分も同じ研究をしていると語る。いま叔父は旅行中だということだった。
彼女がグランヴィルを案内した部屋の壁には、異界の荒野を描いた絵が掛かっていた。意識を拡張するための様々な薬物を彼女はグランヴィルに紹介しようとし、グランヴィルは彼女のことを怪しみはじめる。己の意識を遡って時の彼方まで旅することについて彼女はグランヴィルに説明し、その旅から自分の叔父はまだ戻ってきていないと付け加えた。
その時、壁に掛かっている絵の中に小さな人影が現れた。その人影は何かに追われており、死に物狂いで手前の方へ走ってきた。彼女は叫ぶ。
「ティンダロスの猟犬だわ!」
失踪していた叔父が戻ってきたのだ。彼女の叔父は火だるまになって絵から飛び出してきた。彼女は叔父に駆け寄り、自分の身が危険にさらされるのもかまわずに火を消そうとしたが、そのとき部屋はまばゆい光に包まれた。そして何かがグランヴィルを捉えて投げ飛ばした。
気がつくとグランヴィルは道に倒れており、彼が不思議な若い女性に連れられて入ったはずの屋敷は影も形もなかった。聞くと、そこに建っていた屋敷は半世紀も前に火事で消失したということだった……。
古風な幽霊譚に無理やりティンダロスの猟犬を突っ込んだような話だ。老境のロングが自らの青春を振り返りながら同人誌のために書いた作品なのだろうか? 「永劫への門」にはずいぶん前から興味があったのだが、実際に読むことができたのはダニエル=ハームズのおかげだった。『エンサイクロペディア・クトゥルフ』と『キーパーコンパニオン』の日本語版をハームズに送ったところ、「永劫への門」が収録されている『クトゥルーの窖』の25号を代わりにくれたのだ。彼に深く感謝する次第である。

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