新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2010-01-01から1年間の記事一覧

ラヴクラフトは劉備、ダーレスは曹操

日本で一番、ダーレスを愛する男、竹岡啓さん 私立RPGハイスクール、BR:超マロリー光線: 黒い森の祠 朱鷺田先生はこういっているが、実のところ私はダーレスがそう好きというわけではない。彼は傲慢なエゴイストだ。ただし、その偉大さは正しく認識されるべ…

掃除する人、しない人

1940年の大晦日、ダーレスは近所の人々を招いてパーティーを開いた。当然ながら部屋が散らかる。するとダーレスは掃除機を持ち出し、夜中の3時だというのに片付けを始めた。ダーレスは常にきちんと整頓していないと気が済まない性分だった──という逸話…

タイピングが得意な人、苦手な人

ラヴクラフトのタイプライタ嫌いは有名だ。彼は生涯に一台しかタイプライタを買わなかった。それはレミントン社製の中古品で、小説ではなく天文学の解説記事を書くために必要だったのだろうとS.T.ヨシは推測している。 一方、ダーレスはタイピングが得意…

クトゥルー新世紀余話

森瀬繚さんのブログで予告されていたとおり、*1「クトゥルー新世紀」に関連する投書がSFマガジンの2010年6月号に掲載されている。S-Fマガジン 2010年 06月号 [雑誌]出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/04/24メディア: 雑誌 クリック: 22回この商…

冷たき刻印

ラムジー=キャンベルのクトゥルー神話短編集Cold Print があらかた未訳のままになっているのは残念だが、その内容は湖の隣人の小屋で窺い知ることができる。この本にはグラフトン版とヘッドラインの増補版があり、さらに新版を出す計画もあるらしい。*1 Col…

ダーレス 鷹と……鳩

昨日の記事で紹介したドロシー=M=グローブ=リタースキーのダーレス伝は日本のアマゾンでは取扱がないが、米アマゾンにはレビューも掲載されている。 今のところ、オーガスト=ダーレスの伝記は本書しかない。本書を読んだばかりに憤激し、危うく卒中を起…

闇に葬れ

クリス=J=カーのサイトがラヴクラフト作品の版権について詳細に論じているが、そこに参考資料としてジョージ=T=ウィッツェルの文章が掲載されている。*1ウィッツェルが紹介している逸話のひとつは、以下のようなものだ。 ジェイムズ=W=トーマスとい…

ピックマンのモデム

id:asahi-arkhamさんのTwitterから。 window.twttr = (function(d, s, id) { var js, fjs = d.getElementsByTagName(s)[0], t = window.twttr || {}; if (d.getElementById(id)) return t; js = d.createElement(s); js.id = id; js.src = "https://platform…

エリザベス=エイクリー事件の記録

先日の記事で言及した"Documents in the Case of Elizabeth Akeley"の話である。これはリチャード=A=ルポフが1982年に発表した短編で、ラヴクラフトの「闇に囁くもの」の後日談になっている。1979年、ミ=ゴと一緒に宇宙を旅していたヘンリー=エ…

それでもユゴスは惑星である

ラヴクラフトは15歳の時にサイエンティフィック=アメリカンへの投書で未発見の太陽系第9惑星のことを論じており、この惑星は後にユゴスと呼ばれることになった──というトリビアを『クトゥルー神話ダークナビゲーション』で披露したことがある。その途端…

カメレオンの街

キングスポートを舞台にした小説をカール=ジャコビが書いている。"Chameleon Town"という短編で、1975年にアーカムハウスから刊行されたアンソロジーNameless Places に収録されている。郵便チェスを通じて知り合った5人がチェックメイツと名乗り、自…

星間宇宙の大帝

『萌え萌えクトゥルー神話事典』の執筆を手伝ったとき、ハスターの称号を「星間宇宙の大帝」とした。これはダーレスの「破風の窓」に出てくる"Lord of the Interstellar Spaces"を和訳したもので、『クトゥルー』の1巻に収録されている大瀧啓裕訳では「星間…

ダーレス賞制定の理由

英国幻想文学協会は、シャーロキアンとしてのダーレスの功績を記念して、彼の死の翌年である1972年にオーガスト・ダーレス賞を制定した。 wikipedia:オーガスト・ダーレス ウィキペディアに何が書いてあっても驚かないが、これはひどい。ダーレスといえばソ…

クトゥルー新世紀

SFマガジン2010年5月号の特集「クトゥルー新世紀」で短編小説ひとつの翻訳と概説の執筆をやらせていただきました。S-Fマガジン 2010年 05月号 [雑誌]出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/03/25メディア: 雑誌購入: 4人 クリック: 74回この商品を含…

ファットフェイス

Cthulhu 2000 に収録されている作品のうち、未訳のままになっているもののひとつがマイクル=シェイの"Fat Face"だ。そして、この短編でシェイが新たに創造した怪物がショゴスロードである。優れた知能と高度な変身能力を備え、人間に化けて社会に紛れこむこ…

クトゥルー2000

売れ行きも好調のようでなにより。 品切れになる前に購入することをおすすめしますぞ。 【TRPG】 「クトゥルフ2010」好評発売中です: ひきだしの中身blog 『クトゥルフ2010』の売れ行きが好調とは喜ばしい限りだが、この題名を聞いたときは「『クトゥル…

実は三つ子だったウェイトリー兄弟

クトゥルー神話の珍説のひとつに「『ダニッチの怪』のウィルバー=ウェイトリーには不可視の怪物以外の兄弟がいた」というものがある。W.H.パグマイアとロバート=M=プライスの合作である"The Tree-House"という短編で唱えられている説だ。 "The Tree-…

ヴァスタリエン

"Saucers From Yaddith"の粗筋を確認するためにThe New Lovecraft Circle を本棚から引っ張り出してきたのだが、このアンソロジーに収録されている他の作品もついでに紹介させていただこう。トーマス=リゴッティの"Vastarien"である。 ヴァスタリエンという…

ヤディスの円盤

寺田旅雨さん(id:servitors)のツイートから。くとぅったー……。俺得すぎました。 @DHKNSは『夜中の校舎でアルハザードのランプを汚してしまい、事件に巻き込まれ、アフーム=ザーによって体の中と外を反転され、狂気と苦痛の中、鮮明に意識を保たされてしま…

『クトゥルーの世界』休刊

ダニエル=ハームズのブログによると、ペガサス=シュピールがWorlds of Cthulhu の休刊を決定したそうだ。*1 Worlds of Cthulhu については赤虫療養所に解説があるので参照されたい(このページの8月8日付の記事)。すばらしいクトゥルー神話TRPG専門…

羽目板張りの部屋

ピーター=ストラウブの編集したAmerican Fantastic Tales にはダーレスの"The Panelled Room"が収録されているらしい。*1この短編を選ぶとは、さすがストラウブだ。 リディアとイルマの姉妹が引っ越してきた屋敷は祟られているという噂だった。50年前、ピ…

机の中の女たち

引き続きフリッツ=ライバーの未訳作品の話である。The Ghost Light に収録されている9編のうち、まだ邦訳のない3編のひとつが"A Deskful of Girls"だ。1959年度のヒューゴー賞候補作である。 語り手はカー=マッケイという事件屋。スター俳優のジェフ…

幽霊灯

The Ghost Light という作品集をフリッツ=ライバーは1984年に出している。九つの短編(そのうち三つが未訳)と自伝が収録されており、かなり分量のある本だ。九つの物語のモチーフとなっている「もの」を彫刻家のジョエレン=トリリングが実際に製作し…

ダーレス、ブロックを指導する

また、筆者も好きなグラーキやイゴーロナクなどを輩出したラムゼイ=キャンベル(読みたいけどどれも未訳。なんでじゃ!)に「既存のアイデアに頼らず、独自の道を模索しなさい」とアドヴァイスしたことから(あのダーレスが!)、文才や人を見る目はちゃん…

黒いゴンドラ

フリッツ=ライバーに"The Black Gondolier"という短編がある。私なりに邦題をつけるとしたら「黒いゴンドラ」といったところか。正しくは「黒いゴンドラの船頭」なのだが、ゴンドラ自体も黒いということになっているので許容範囲内だろう。ダーレスが編纂し…

指輪の妖魔

リチャード=L=ティアニーの短編「セトの指輪」の話を以前した。大魔道士トート=アモンの持っていた蛇神セトの指輪はローマ皇帝ティベリウスの手に渡っていたという話だ。 それから2000年近い歳月が流れたわけだが、誰か権力者がまたハスターの指輪に…

黒いガラス

今年はフリッツ=ライバーの生誕100周年だが、彼の作品には未訳のものが多い。"Black Glass"もそのひとつだ。これは1978年に発表された短編で、同年のローカス賞候補になった。The Ghost Light などに収録されている。 ニューヨークの街角を歩いてい…

ラヴクラフト、飛行機に乗る

An H. P. Lovecraft Encyclopedia によると、ラヴクラフトは飛行機に乗ったことがある。1929年8月下旬、フランク=ベルナップ=ロングの一家がラヴクラフトをニューベッドフォードとケープコッドに連れて行ってくれたとき、バザーズ湾の上を飛ぶ便に乗…

河より吹く風

ダーレスに"The Wind from the River"という短編がある。この作品のことを、ダーレスは1932年2月22日付のラヴクラフト宛書簡*1で次のように語っている。 「河より吹く風」が売れるだろうとは思いませんが、ライトがしまいに採用してくれたらいいなと…

モスクワからの手紙

ホフマン=プライスはソビエト連邦への移住を企てていたことがあるらしく、ラヴクラフトは1933年1月6日付のダーレス宛書簡*1でその話をしている。 ソビエトの切手が貼られ、モスクワの消印が押された手紙を私が頻繁に受け取るようになったら、バーンズ…