新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ヴァスタリエン

 "Saucers From Yaddith"の粗筋を確認するためにThe New Lovecraft Circle を本棚から引っ張り出してきたのだが、このアンソロジーに収録されている他の作品もついでに紹介させていただこう。トーマス=リゴッティの"Vastarien"である。
 ヴァスタリエンというのは、この物語の主人公ヴィクター=ケイリオンが夢に見る都の名前であり、また彼が書店で見つけた本の題名でもある。その本は途方もなく高価なものだったのだが、その場に居合わせた「鴉のような男」が口を利くと、店主はなぜか値下げしてくれた。見知らぬ鴉男が値下げの分を自分の代わりに支払っていたことをケイリオンは後で知る。
 そうして手に入れた本を読むことにより、夢の都ヴァスタリエンは単なる夢ではなく、「もうひとつの現実」ともいうべき存在になった。しかし、あの鴉男がケイリオンの夢の中に現れてヴァスタリエンを喰らってしまう。自分では読めない本を鴉男はケイリオンに読ませ、その後で彼からヴァスタリエンの秘密を盗んだのだ。そう信じたケイリオンは鴉男を殺害し、精神病院に収容される。精神病院の独房でケイリオンはヴァスタリエンの書を読み続けるが、そのページは彼以外のものには白紙にしか見えないのだった……。
 「セレファイス」をもっと不可解で残酷な感じにした作品というべきか。とかくリゴッティの作品は難解で、まるでフランツ=カフカクトゥルー神話小説を書いているみたいだと揶揄する向きもあるのだが、ラヴクラフトの衣鉢を継ぐ一人として重要な存在であることは間違いない。彼の作品では、The Azathoth Cycle に収録されている"The Sect of the Idiot"も一読に値する。

The Azathoth Cycle: Tales of the Blind Idiot God (Call of Cthulhu Fiction)

The Azathoth Cycle: Tales of the Blind Idiot God (Call of Cthulhu Fiction)